図1-23 「常陽」材料照射試験装置の鳥瞰図
図1-24 ODS鋼の照射後引張特性変化
FBRによる核燃料サイクルの実用化のためには、技術的な確立は当然のこととし、市場経済に受容される、すなわち、現在の基幹電源と比肩し得る発電単価を確保することが必要です。この発電単価を抑えるためには、燃料集合体の交換サイクルを長くし、炉心燃料を長期間炉内に装荷し燃料交換を少なくすること、すなわち、燃料の高燃焼度化が必要になります。燃料の高燃焼度を達成するためには、燃料集合体を構成する被覆管及びラッパ管が、照射中及び照射後においても健全であることが絶対条件となります。
現在、高燃焼度を達成するためのFBR燃料被覆管として、従来のフェライト鋼より高温強度に優れている酸化物分散強化型(ODS: Oxide Dispersion Strengthened)鋼を開発しています。この材料の開発にあたっては、照射による材料の照射挙動、組織変化や強度変化を評価することが必要です。
私たちは、ODS鋼の照射挙動評価のために、図1-23に示す「常陽」の材料照射試験装置を用いて、照射試験 (683 K〜1108 K,3.0〜6.6×1026 n/m2)を実施し、照射後強度試験と組織観察を実施しました。
被覆管材料としての照射後の基本性能を把握するために実施した照射後引張特性評価の結果を図1-24に示します。図中には、高燃焼度化に対応する燃料被覆管の最高使用温度である973 Kの線を示してあります。今回の照射試験では、FBR使用温度領域を大きく超える1108 Kでの高温データを世界で初めて取得しました。従来のフェライト鋼(PNC-FMS)の強度低下割合は、照射温度の増加に伴い加速しています。これは、フェライト鋼の強化因子であるマルテンサイト組織が回復し、不安定になっていることに起因しています。
しかし、ODS鋼の強度低下の割合は非常に小さく、従来のフェライト鋼と比較し、高温照射下でも優れた強度特性を維持していることが分かりました。これは、ODS鋼の主要強化因子である熱的に安定な酸化物粒子が、高温照射下でも安定に存在していることに起因しているためと推察されます。
今後は、次世代炉開発を支える基盤技術開発としてODS鋼の開発を進めていき、「常陽」再起動後の照射試験での照射性能確認及び照射後試験での特性評価を実施するための準備を進めていく予定です。