2-2 遠い将来の隆起・侵食の影響を評価する

−我が国の地形変化の特徴を考慮した評価事例−

図2-4 我が国の河川中流域の典型例

図2-4 我が国の河川中流域の典型例

 

図2-5 河川による侵食の概念モデル(氷期−間氷期1サイクル)

図2-5 河川による侵食の概念モデル(氷期−間氷期1サイクル)

河床では、氷期には堆積が、間氷期には下刻が進みます。側方侵食と斜面後退は、継続して発生します。1サイクルの間に元の段丘は侵食され、新しい段丘が形成されます。このような侵食が継続すると、参照基準面は、下刻、段丘の側方侵食、斜面後退のいずれかによって、少しずつ削られることが分かります。

 

図2-6 隆起・侵食による処分場の削剥の影響評価例

図2-6 隆起・侵食による処分場の削剥の影響評価例

廃棄体中の放射性物質はすべて処分場近傍に存在すると仮定しました。 放射性核種による 影響の違いを補正 して、天然ウランと比較しました。

高レベル放射性廃棄物の地層処分における隆起・侵食の取扱いについては、過去数10万年程度の地質学的な記録を基に、過去から現在までの隆起速度が大きな地域は処分場の候補地から除外されることとなっています。しかしながら、何10万年を超える遠い将来には、隆起・侵食によって処分場が地表近傍に到達することも考えられるので隆起・侵食が地層処分システムに及ぼす影響について念のために評価をしておくことは、処分システムの頑健性を示す上でも重要です。

従来は、処分場が平面的に地表に現れ処分場全体が一様に削剥されるという簡易な仮定に基づく評価が行われていました。しかしながら、現実的には、我が国の地表は非常に起伏に富んでおり、その主な原因のひとつは河川による侵食であることも分かっています。

そこで本研究では、我が国における隆起と河川による侵食によってもたらされる地形変化について、従来の地形学の研究などを基に情報を整理しました。その結果、特に河川中流域では地形変化を検討する要素として、(1)河床での侵食/堆積 (2)段丘の形成 (3)斜面の形成 と斜面の後退が重要となることが理解されました(図 2-4)。

また、およそ10万年を周期として繰り返される、氷期−間氷期の影響も河床の侵食/堆積を理解する上で重要です。およそ2万年間継続する間氷期には、河川中流域では氷期に比べ河川流量が多くなるため河床の侵食が起こります。一方、およそ8万年間継続する氷期には、河川の流量が少なくなるため堆積が進みます。

次に、上記の検討に基づき現象を単純化した概念モデルを作成しました(図2-5)。

遠い将来、地下深部の処分場が地表近傍に到達した場合にも、このような地形変化は継続していると考えられます。このことを踏まえると、処分場深度の地層は図2-5に示すように数万年以上の時間の中で徐々に削剥されます。

この場合の影響を、天然に存在する岩石由来の放射能と比較することで検討しました。図2-6に示すように、処分深度,隆起・侵食速度,地形(谷の幅,段丘比高など)に依存しますが、最大でも我が国に存在するウラン鉱石(0.05 wt%U3O8)が削剥された場合と同程度であり、多くの場合、それよりはるかに小さい結果になりました。