図2-21 調査坑道におけるHFSC吹付け施工範囲
図2-22 調査坑道の断面図
図2-23 坑道壁面への吹付け状況
高レベル放射性廃棄物の地層処分場の建設には、支保工としてセメント系材料を使用することが想定されます。通常のセメント系材料では、接触した部分の間隙水が高アルカリ性となります。この高アルカリ性の地下水が緩衝材や周辺岩盤を変質させ、人工バリアや天然バリアとしての性能に影響を与える可能性があります。このような影響を緩和するために、私たちは、通常のセメント系材料よりも間隙水のpHが低くなる低アルカリ性セメント(HFSC)の開発を2001年度から継続しています。2008年度までに室内試験や、模擬トンネルへの吹付け試験などを通じて、HFSCを用いた吹付けコンクリートの基本配合を設定しました。
設定した基本配合を基に、幌延深地層研究センターの地下施設の140 m及び250 m調査坑道において、施工試験を実施し、支保工としての施工性や適用性を確認しました。施工範囲を図2-21に、調査坑道の断面図を図2-22に示します。
坑道掘削時の施工に先立ち、地下施設建設で使用しているコンクリート製造設備を用いた試験練りを実施し、実際に使用する設備の特性にあわせて基本配合の見直し(配合修正)を行いました。見直した配合に対して、施工時に使用する実機を用いた模擬吹付け試験を地上で実施し、HFSCを用いた吹付けコンクリートが、設計基準強度36 N/mm2(材齢28日)を満たすことを確認しました。
地上での試験結果を受けて、2009年及び2011年に140 m及び250 m調査坑道の一部でHFSCの吹付けコンクリートを施工しました(図2-23)。施工延長及び総吹付け量は、140 m及び250 m調査坑道合わせて約126 m及び約826 m3です。また、坑道掘削時の施工においても設計基準強度を上回る強度発現を確認しました。施工性については、通常のセメントによる吹付けコンクリートの場合と比較して、混合状態、粉塵及び付着状態などを評価しました。その結果、HFSCは通常のセメントと同等の施工性を示し、特に、粉塵や付着状態では優れた評価となりました。以上のことから、HFSCの吹付けコンクリートは実際の地下坑道の施工に適用可能であることが示されました。
これまで、低アルカリ性セメント系材料を用いた小規模な施工試験で国外での事例がありますが、本格的に地下施設の坑道掘削時に施工し、その実用性を確認したのは世界で初めてです。