5-10 原子炉の安全な解体のために

−解体作業時の被ばく線量評価システムの開発−

図5-19 廃止措置平常時の放射性核種の放出経路

拡大図(225KB)

図5-19 廃止措置平常時の放射性核種の放出経路

解体対象物の切断,除染等の作業によって放射性粉じん等が発生し、その一部がフィルタを通過、あるいはグリーンハウス、建屋等から漏えいし、大気及び海洋へ放出されます。空気中の放射能濃度や地表沈着濃度、海水中の放射能濃度等を評価し、被ばく経路ごとに周辺公衆の被ばく線量を計算します。

 

表5-2 作業者被ばく線量の実績と評価例

作業内容や作業員構成を反映し、現実的な線量率、作業時間等を用いることで被ばく線量を精度良く評価できました。建屋の機器類では、それらがすべて作業者近傍に位置するという保守的な計算モデルを用いているため、実績値より大きな値となりました。

表5-2 作業者被ばく線量の実績と評価例

 

 

図5-20 周辺公衆の被ばく線量の評価例

拡大図(123KB)

図5-20 周辺公衆の被ばく線量の評価例

排気フィルタ等の対策を考慮したことにより、周辺公衆への影響は無視できるレベルとなりました。外部・内部被ばくとも大半が海洋放出に関連する被ばく経路(海浜作業,海産物摂取等)によるものでした。農作物摂取経路に寄与する核種はC-14でした。

老朽化による運転停止や事故による損傷のため、原子力発電所等を解体撤去することを廃止措置といいます。廃止措置は原子炉内に残存する放射能を除去しながらの活動となるため、作業者や周辺公衆の健康に影響を及ぼさないように行う必要があります。これは東京電力株式会社福島第一原子力発電所の廃止措置にも当てはまります。

原子力発電所を廃止措置する場合、規制当局に「廃止措置計画」の認可申請を行い、計画が安全、適切であることが認められて初めて廃止措置工事に着手できます。認可申請では、汚染物の切断等の作業やそのとき発生する放射性の気体や粉じんによる作業者の被ばく、並びに排気フィルタを通過して大気中へ放出されたり、廃液の処理後に、海洋へ放出される放射性物質による周辺公衆の被ばくをあらかじめ評価することが求められています。この評価においては、解体対象物の放射能量,解体作業の内容,作業工程等に基づき放出する放射能量を算出した上で、様々な被ばく経路ごとに被ばく線量を計算します。また、火災・爆発等、廃止措置時に想定される事故による周辺公衆の被ばく線量も評価する必要があります。

安全研究センターでは、こうした廃止措置時の安全性の確認に役立つ被ばく線量評価システムを整備してきました。平常作業時における被ばくを例とした計算モデルを図5-19に示します。また、切断により飛散する放射性物質の割合(飛散率)は評価に重要なデータですが、既存データは模擬配管等を用いて取得したものがほとんどでした。私たちは実際の原子炉から取り出した汚染配管を使って飛散率の測定を行い、その結果を参照して既存データの信頼性を確認しました。

(旧)原研(現:原子力機構)の動力試験炉(JPDR)の解体実地試験から多くの有益なデータが得られましたが、それらは本システムの検証にも役立ちました。JPDRの解体工事に本システムを適用した結果、作業者被ばくについては、十分精度良く、あるいは安全側に評価できること(表5-2)、公衆被ばくでは、作業工程に沿って被ばく経路を明らかにし、その影響は無視できる程度であること(図5-20)が分かりました。

廃止措置が本格化する時代を迎え、原子炉の安全な廃止のために、本システムを更に利用しやすく、また、損傷施設への適用も目指して改良を進める予定です。

本研究は、経済産業省原子力安全・保安院からの受託研究「発電用原子炉廃止措置基準化調査」の成果の一部です。