図5-1 安全研究の分野と関連する原子力機構の主な施設
安全研究センターでは、原子力発電のための施設で深刻な事故が起きる可能性や影響を評価して、現在使われている軽水炉を安全に使うことができるように研究を進めてきました。しかし、東日本大震災による巨大な地震と津波によって、東京電力株式会社福島第一原子力発電所で大規模な事故が起きてしまいました。安全研究センターもこれまでの研究成果を活用して、国の緊急時対応に協力してきましたが、安全研究の専門家集団として今回の事故を防ぐことができなかったことに対し責任を痛感し、原子力を利用する限り重大な被害をもたらすことがないようにする努力を怠ってはならないと考えています。
私たちが利用する技術には常に改善の余地があります。技術をより安全に、かつ効果的に使うためには、常に状態をきちんと理解して対応する能力を高め、必要な道具を磨いていかなければなりません。東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の調査を行った国際原子力機関(IAEA)もこのことを「継続的改善(Continuous Improvement)を目指すことが重要」と指摘しています。
安全研究センターでは、原子力の安全を脅かす可能性のある多様な現象について、図5-1に示す色々な施設などを活用して研究を進めてきました。これらは、原子力特有の現象を研究するために、放射性物質を取り扱ったり、厳しい事故条件を模擬できるなどの特殊な能力を有する施設です。
本章では、原子炉の燃料被覆管の劣化(トピックス5-1, 5-2)、原子炉構造材料の劣化や地震に対する構造物の健全性(トピックス5-3, 5-4, 5-5)、地震によって原子炉出力が変動する可能性(トピックス5-6)、原子炉内に蓄積される放射能(トピックス5-7)、シビアアクシデントでの放射性ヨウ素の放出(トピックス5-8)、放射性廃棄物の長期安定性(トピックス5-9)、原子炉の解体(トピックス5-10)に関する最近の安全研究の成果を紹介します。私たちはこうした技術的課題に着実に対応していくことが、国の安全規制や電気事業者を含めた原子力利用技術の「継続的改善」を促進する上で不可欠であり、特に今後はシビアアクシデントに対応した研究を重点的に進めることが必要だと考えています。