図5-12 水平加振時の燃料集合体線出力密度の時間変化
図5-13 炉心出力への加振方向の影響
巨大地震発生時には、従来の想定を上回る地震動が原子炉に加わることが分かってきており、重力加速度と比べて無視できない大きさの振動加速度が冷却水に加わると考えられます。通常は基準値を超える地震動を検出すると、自動的に制御棒が炉心に挿入(スクラム)されて炉心出力は急激に低下し、安全な停止状態に移行します。しかし万一スクラムが失敗した場合、特に沸騰水型軽水炉(BWR)では、地震動による冷却水流量の時間的・空間的な変動が、炉心内のボイド率(冷却水中の蒸気の体積割合)の変動を引き起こすことが懸念されます。燃料棒内での核反応の生じやすさは、炉心内のボイド率に強く影響を受けるため(ボイド反応度フィードバック)、ボイド率の変動により炉心の出力分布が変動し、炉心の安定性が低下する可能性があります。これを考慮し、地震動による炉心安定性への影響を評価する研究を行っています。
このため、原子力機構で開発した燃料棒内での核反応と冷却水の伝熱・流動を同時に三次元で解析できる計算コードTRAC/SKETCHを、地震加速度の影響を考慮できるように改造し、BWRを詳細に模擬した数値解析を行いました。従来、鉛直方向の加速度が炉心全体の出力を同じ位相で変動させる可能性が示唆されていました。
今回、水平方向に正弦波加速度を入力すると、図5-12のように炉心の両端で逆位相の出力変動が発生する場合があることを突き止めました。また、図5-13に示すように、同じ大きさの加速度を与えた場合、水平方向より鉛直方向の加速度の影響が顕著であり、更に両方向の加速度を同時に加えた場合、最初の出力増加が抑制される一方で、二度目の出力増加が非常に大きくなるなど、複雑な出力変動となる場合があることを見いだしました。
実際の地震波には様々な周期の振動波形が含まれるため、入力加速度の周期の影響を調べたところ、およそ2〜4秒の比較的長周期の振動が加わったとき、炉心出力が大きく変動することが分かりました。長周期の地震波は減衰しにくいことが知られており、比較的遠方で発生した地震であっても、炉心の安定性に影響を与える可能性が考えられます。
これらの知見を基に、実際の地震動が加わった場合の、種々の運転状態にある原子炉の安定性を詳細に予測する研究を進めています。
本研究は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)の助成により実施しました。