図5-10 地震によるき裂進展の模式図
図5-11 振幅の減少がき裂進展速度に及ぼす影響
原子力発電所では、安全上重要な配管等の健全性を保つため、定期的に検査が行われます。検査で微小なき裂状の欠陥が発見された場合、運転荷重や地震に伴う繰返し荷重により、検査後の供用期間中にき裂が進展して壊れないかの評価が行われます。この評価をする際には、通常は振幅の小さい弾性域の評価に適したパラメータである応力拡大係数範囲(ΔK )を用いて、地震荷重等を一定振幅の繰返し荷重に置き換えて評価が行われます。
しかし、2007年の新潟県中越沖地震や2011年の東日本大震災のように、非常に大きな地震では、ΔK の適用範囲を超え、塑性域に達する荷重が加わる可能性があります。また、地震に伴う繰返し荷重は不規則な波形です。地震時のき裂進展の様子を模式的に図5-10に示します。これらに対応したき裂進展評価手法が必要です。そこで、大地震を模擬した弾性域を超える繰返し荷重によるき裂進展挙動を確認する試験を行い、それに対応したき裂進展評価手法を構築することとしました。
まず、一定振幅でかつ大きな振幅の繰返し荷重による疲労き裂進展速度が、ΔK に替えて、弾塑性破壊力学パラメータであるJ 積分値の範囲(=最大値−最小値)ΔJ を用いて評価できることを確認しました。
次に、振幅変化の影響評価のために、繰返し荷重の振幅を段階的に増減させて、地震時における不規則な波形の一部を模擬した試験を行いました。結果、振幅を増加させた場合のき裂進展速度は、振幅一定でのき裂進展速度と変化がなく、振幅を減少させた場合は、振幅一定でのき裂進展速度よりも遅くなることが示されました(図5-11)。き裂進展の遅延は、図中に示す遅延効果と遅延領域の大きさで表され、この大きさをき裂先端の塑性域の大きさに着目して、定量的に評価する手法を論文で提案しました。
さらに、不規則な波形に対応するために、1サイクルごとにΔJ を算出する手法を開発しました。この手法は、実配管への適用を想定し、荷重履歴等の推定可能な変数からΔJ を算出することが可能です。これにより、地震時のき裂進展量を求めることが可能になります。
このように、ΔJ によるき裂進展評価と遅延効果及び不規則な波形に対応したΔJ の算出手法を組み合わせ、大地震によるき裂進展の評価手法を提案しました。この評価手法により、従来のΔK によるき裂進展評価法と比較して、より精度良くき裂進展を予測可能になると考えています。