図5-17 ガラス固化体を漬けたMg溶液中の元素濃度の変化
図5-18 Mg溶液中に漬けたガラス固化体の表面写真
使用済燃料の再処理から発生する高レベル放射性廃液は、ガラスで固めた(ガラス固化)後にオーバーパック(OP)と呼ばれる鉄の容器で密封し、その周りをベントナイト(粘土)で覆い、300 mよりも深い地下に地層処分される計画です。数100年あるいは数1000年後には、地下水がベントナイトに染み込み、OPが腐食し、ガラス固化体に地下水が接触して放射性物質が溶け出す可能性があります。したがって、地層処分の安全性を評価するためには、処分環境でのベントナイト内の水の流れやOPが腐食する速度に加えて、ガラス固化体の溶ける速度を知ることが重要です。ガラス固化は、放射能濃度の高い廃棄物を安定化できるため、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の処理で発生する放射性廃棄物の一部に対しても有力な処理方法です。
ガラス固化体は、主成分であるケイ素(Si)が溶け出しやすい条件では速く溶けますが、深い地下を流れる地下水の速度はとても遅いため、ガラス固化体に接触した地下水中のSi濃度が高くなりガラス固化体にとって飽和に近い状態となることから、溶ける速度は非常に遅くなると考えられています。
一方、地下水中には様々な成分が含まれますので、ガラス固化体の溶け方に影響を及ぼす成分を把握しておくことも重要です。
本研究では、石灰岩地下水などに含まれるマグネシウム(Mg)に着目し、Mgイオン溶液中でのガラス固化体の溶け方を調べました。
その結果、溶液中のMgイオン濃度が高いとガラス固化体が速く溶けることが分かりました(図5-17)。また、ガラス固化体の表面にはMgとSiを主成分とした変質層が形成されていました(図5-18)。
これらの結果から、ガラス固化体から溶け出したSiと溶液中のMgイオンが化合してマグネシウムケイ酸塩を生成し、ガラス固化体表面近くのSiが消費され、ガラス固化体が速い速度で溶けたと考えられます(約40日まで)。その後、溶液中のMgイオンが尽きるとマグネシウムケイ酸塩の生成も止まり、Siの消費も止まることから、ガラス固化体の溶ける速度が遅くなったと考えられます(約40日以降)。
このように、ガラス固化体の溶ける速度を把握するためには、地下水中などにSiを消費する反応を引き起こす成分が多く含まれているかどうかを調べることが重要で、そうした成分が少ない環境であれば、ガラス固化体から放射性物質が溶け出しにくいということが分かります。