図10-2 ふげん冷却系配管試料の表面汚染溶解過程
図10-3 TRUレジンを用いたPuとAmの分離スキーム
図10-4 Fe(III)を含む試料溶液からのAm回収率に与えるアスコルビン酸添加の影響
原子力施設の解体により発生する多種多様な低レベル放射性廃棄物を処分するためには、廃棄物中に含まれる237Np,238,239,240,242Pu,241,242m,243Am,244CmなどのTRU核種の濃度を確認する必要があります。ここでは原子炉冷却系配管に付着したPuとAmの分析法について検討しました。
冷却水に接していた配管内面は放射性核種が付着しています。この表面汚染中に極微量含まれるPuやAmを定量するには、それらを多量のFe,CrやNiなどの配管主成分から分離し、薄い膜状の測定試料に調製する必要があります。そこで、この表面汚染を塩酸(12 M)と硝酸(13 M)の混酸(塩酸:硝酸:水=1:1:4)により溶解する条件を検討しました。その結果、汚染表面を5時間以上この混酸に浸せば汚染を溶解できることが分かりました(図10 -2)。
次に、PuとAmを配管主成分から簡易・迅速に化学分離するためにTRUレジンを用いた抽出クロマトグラフィーを検討しました。TRUレジンは硝酸溶液から三,四,六価のアクチニド(An)を選択的に抽出しますが、塩酸溶液ではAn(III)を溶出します。そこで、溶解液を一度蒸発乾固して2 Mの硝酸溶液に調製し、TRUレジンに通液してAmとPuを抽出し、配管主成分を溶出させて分離したあと、Puを四価にしてTRUレジンに保持させ、Amを塩酸溶液で回収し、その後PuをTiCl3で三価に還元して回収するスキームを組み立てました(図10 -3)。このとき、Fe(III)を多く含む試料ではAm(III)の抽出が阻害されるため、Fe(III)をFe(II)に還元する必要があります。そこでFe(NO3)36H2Oを用いてFe(III)を0.5 g又は1 g含む20 mLの2 M硝酸溶液を調製し、Amの回収率に与える還元剤(アスコルビン酸)添加の影響を調べました。その結果、いずれも反応当量(アスコルビン酸1 molに対して2 molのFe(III)がFe(II)に還元される)に対して1.3倍以上のアスコルビン酸を添加することによりほぼ100%のAm回収率を得られることが分かりました(図10 -4)。なお、回収したAmとPuはNdF3共沈により線源を調製し、α線スペクトロメトリーを行いました。
以上の検討結果をもとに、「ふげん」で採取した冷却系配管試料(6試料)に付着したPuとAmを分析しました。その結果、1試料について1.6×10−5 Bq/gの239+240Puが検出されましたが、それ以外は検出限界値以下でした(238Puに対しては2.8×10−6 Bq/g以下、239+240Puに対しては3.0×10−6 Bq/g以下、241Amに対しては2.9×10−6 Bq/g以下)。また、既知量の放射性核種を添加した試験からPuとAmに対してそれぞれ94〜101%と85〜93%の高い回収率が得られました。