図10-5 セメント固化による重金属の閉じ込め
図10-6 六価クロムの溶出濃度
放射性廃棄物の処理処分において、その費用を低減すること、処分時の安全性を高めることなどが非常に重要です。原子力機構では可燃性の放射性廃棄物を焼却し、発生した焼却灰はセメントを用いて固形化したあと、地中へ埋設処分する計画です。セメント固化における利点は、セメント自体が安価で、放射線による劣化が起こりにくいことなどがあります。一方、セメントで固化した固化体(セメント固化体)が水と接触すると、わずかですがセメント固化体の一部が溶け出すことがあります。
焼却灰には、焼却対象物であるプラスチックや塗料に含まれている鉛,カドミウム,六価クロムなどの重金属をわずかながら含有しています。埋設処分された焼却灰のセメント固化体が地下水などの水と接触すると、焼却灰中の重金属が溶出する可能性があるため、焼却灰中の重金属はセメント固化体に閉じ込めることが重要となります(図10 -5)。
このため、鉛,カドミウム及び六価クロムの化合物を実灰に含まれる含有量を考慮し、灰重量に対して1%加えた焼却灰とセメント材,水を練り合わせてセメント固化体を作製し、それを多量の水と接触させる試験を行い、セメント固化体からの重金属の溶出濃度を調査しました。溶出濃度の目標値については、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)」に基づき、鉛及びカドミウムの溶出濃度の目標値を0.3 mg/L以下、六価クロムの溶出濃度の目標値を1.5 mg/L以下としました。
接触させた水に溶出した鉛とカドミウムの濃度は、鉛が0.1 mg/L、カドミウムは検出下限値(0.01 mg/L)以下と目標値以下となり、これらの重金属はセメント固化体内に閉じ込めることができることが分かりました。セメント固化体はアルカリ性の環境であり、鉛やカドミウムは水に溶けにくい水酸化物として存在すると予想されます。
他方、六価クロムの溶出濃度は目標値を超え、閉じ込めることは困難であることが分かりました。六価クロムは強力な酸化剤であり、セメント混練物中に酸化される物質があれば容易に還元されて三価クロムになることが知られています。このため、還元剤である硫酸鉄及び硫化ナトリウムを不溶化剤としてセメント混練物に添加した固化体を作製し、試験を行いました。その結果、還元剤を添加することによって六価クロムの溶出濃度は目標値以下となることが分かりました(図10 -6)。