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11 システム計算科学研究

原子力計算科学研究の役割と可能性

図11-1 原子力機構における原子力計算科学研究の展開

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図11-1 原子力機構における原子力計算科学研究の展開

原子力計算科学研究の成果は、原子力機構内のプロジェクト研究だけでなく、原子力機構外の産学連携・協力の充実・強化にも活用されています。また、福島復興のための研究開発への応用も進めています。

計算科学は、「理論」「実験」と並ぶ第三の研究手法として、実験や観測が困難な現象の解明、予測に不可欠な分野として急成長をとげています。国家プロジェクトとして次世代スーパーコンピュータ「京」が開発され、その利用が一部開始されるなど、計算科学を取り巻く環境の変化が、その成長を加速させているといえます。

私たちは、図11 -1に示すように最先端計算技術を駆使しなければ解決できない耐震強度や材料経年劣化などにかかわる原子力分野の重要課題を選定し、様々な研究開発に取り組んでいます。また、これらの研究に必要な超大規模並列計算技術などを基盤技術として開発、整備するとともに、得られた研究成果を高速炉、核融合などのプロジェクト研究と連携させ、横断展開しています。

材料経年劣化の研究では、原子炉構造材料の劣化のメカニズム解明と予測が重要な課題です。そのため材料強度を下げる不純物原子の偏析を予測する必要があります。トピックス11-1では、第一原理計算で得た係数を用いた拡散レート方程式を解くことで、照射材中のリンの粒界への偏析量を評価した研究例を紹介します。

量子ビーム応用研究部門との連携研究では、J-PARCで観測された鉄系高温超伝導体の中性子散乱強度のデータを解析し、超伝導の仕組みを解明することが重要な課題です。トピックス11-2では、そのために第一原理計算によるモデリングを利用した、スーパーコンピュータでなければできない規模の仮想実験の研究例を紹介します。

原子力施設の耐震研究では、巨大地震発生時の挙動の再現性の向上が重要な課題です。そのためには、最初に塑性化することが予想される接合部とその近辺の弾塑性挙動のモデル化が重要となります。トピックス11-3では、原子力施設建屋と機器の接合部の弾塑性モデリングに関する研究例を紹介します。

福島復興では、福島技術本部との連携のもと、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故に伴う放射線量などの測定結果を一元的に管理するデータベースや地図上で確認することが可能な分布マップシステムを構築し、一般公開しています。トピックス1-3では、これらシステムの概要を紹介します。

私たちは、今後も最先端計算科学を活用した原子力研究開発、及びそれらを支える計算機基盤技術開発に取り組み、原子力機構内外の組織との連携を深め、原子力計算科学研究という分野を牽引していきます。