13-9 ジルカロイ-2/SUS316Lの異材継手の開発

−JMTRにおける軽水炉燃料の出力急昇試験への適用−

図13-20 JMTRにおける軽水炉燃料の出力急昇試験

図13-20 JMTRにおける軽水炉燃料の出力急昇試験

JMTRにおける出力急昇試験では、燃料試料に計測器を接続し、燃料出力変動時の燃料の中心温度や核分裂生成ガスの放出による燃料棒内の圧力変化を測定しています。燃料試料と計測器の接合部では、材料の特性上、異材の直接溶接ができません。そこで、予め製作した異材継手を計測器の先端に接合しておくことで、ホットセル内で燃料試料と計測器を同材で溶接することができます。

 

図13-21 異材継手の試作試験

図13-21 異材継手の試作試験

(a)Zry-2とSUS316Lの異材継手の引張試験を行い、摩擦時間と引張強さとの関係を明らかにしました。
(b)接合境界付近では、エッチングにより白色に変色し、摩擦熱による熱影響部が見られますが、摩擦圧接によりバリとして押し出されています。また、割れやホールは見られませんでした。

燃焼が進んだ軽水炉燃料(高燃焼度燃料)を安全に使用していくためには、出力変動時の燃料の健全性を確認しておく必要があります。そのため、高燃焼度燃料の出力急昇試験を行うための照射設備(沸騰水キャプセル)を材料試験炉JMTRに整備しています(図13 - 20)。

一方、これまでは沸騰水キャプセルの燃料試料部と計測器部の接合は、ジルカロイ-4(Zry-4)とSUS304で行っていましたが、Zry-4はBWR燃料試料と同じ外径に加工可能な素材の入手が困難であり、SUS304は中性子照射環境での応力腐食割れが発生する可能性があることや照射試験後に線量が高くなるため、放射性廃棄物増加の一因になっていました。そこで、素材の入手が容易なジルカロイ-2(Zry-2)と応力腐食割れへの耐性がありCo含有率を0.05%以下にして線量の低減化が図れるSUS316Lを候補材にして、新たな異材継手の開発に着手しました。

本開発では、JMTRにおける沸騰水キャプセルに使用可能なZry-2とSUS316Lの異材継手の製作条件を明らかにすることを目的としました。接合では、摩擦熱によって部材を軟化させると同時に圧力を加えて原子同士を金属融合させて接合する摩擦圧接法により、接合時の温度は室温とし、回転数、摩擦圧力及び摩擦時間等をパラメータとして、Zry-2とSUS316Lの異材継手の試作を行いました。この試作材を用いて、摩擦圧接で接合可能な回転数や摩擦圧力を実験により定め、次に、摩擦時間を変化させて接合し、室温で引張試験を行いました。その結果、摩擦時間を3秒以上とした場合、引張強さは529〜536 MPaであり、日本機械学会規格の判定基準(SUS316Lの最小引張強さ480 MPa以上)を満足することが分かりました(図13 - 21(a))。さらに、出力急昇試験を行う場合の最高温度(573 K)で引張試験を行いました。その結果、引張強さは277〜281 MPaであり、Zry-2の母材の引張強さ(286 MPa at 573 K)とほぼ同等になることが分かりました。なお、引張強さについては、着目する温度において小さくなる方の材料の値を判定基準としています。

異材継手の接合部の断面は、図13 - 21(b)に示すように摩擦熱による熱影響部が見られますが、摩擦圧接によりバリとして排出されて外周の熱影響部は小さくなり、かつ、割れやホールはなく、接合部が健全であることを確認しました。

以上の試験により、Zry-2とSUS316Lの異材継手の摩擦時間と機械的強度との関係を明らかにし、沸騰水キャプセルに使用可能な異材継手の製作条件を定めることができました。これにより、沸騰水キャプセルの製作に見通しが得られました。

本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁(当時、経済産業省原子力安全・保安院)からの受託研究「軽水炉燃材料詳細健全性調査」の成果の一部です。