図13-22 長時間(約82000時間)さらされたステンレス鋼(SUS304)腐食表面の走査型電子顕微鏡による観察例
図13-23 腐食過程の模式図
ナトリウム冷却型高速炉に適用される構造材料は、供用期間の数10年にわたって常に高温(500 ℃前後)のナトリウム(Na)に接液しながら使用されるため、Na腐食が及ぼす材料特性への影響を解明し、材料の健全性を確保することが重要になります。このため、これまでの研究知見を体系的に整理し、高速炉におけるNa環境効果の影響について取りまとめました。
Na環境中では、一般の大気環境下の腐食とは異なり、材料表面に酸化被膜が生成されず、液体の金属Naと固体の金属材料の金属同士が直接接液することになります。この場合、Na環境条件、つまりNaに接液されている温度や時間などによっては、材料の表面からNa中へ合金元素が溶出し、その現象が著しい場合には材料の特性を変化させる一因になります。これらの現象は、温度や時間の他に、Na中における合金元素の溶解度や不純物濃度(主に酸素)に支配されることになります。
例えば、温度分布を有する流動Na系内では、Na流れの中で高温域では材料の合金元素の溶出等による腐食が生じ、その下流側に位置する降温域では、高温域で溶出された微細な腐食生成物が沈着する(図13 - 22)。また、時間経過では、腐食初期には主に合金元素(Ni,Cr等)の選択的な溶出による腐食が進み、その後長時間側になると母相(Fe)の均一的な全面腐食を受けて進行する(図13 - 23)。さらに、合金元素の中で、炭素は材料の強度特性を維持する上で重要な役割を成す元素であり、Naを介した材料の脱炭・浸炭現象が重視されます。異なった材料(例えば、ステンレス鋼とフェライト鋼)で構成されるNa系統では、材料間の炭素活量差から、炭素活量の高い材料(フェライト鋼)で脱炭が生じ、低い材料(ステンレス鋼)では浸炭が生じます。特に、高速炉では軽水炉よりも高い温度で使用されるため、クリープ特性やクリープと疲労が重畳するクリープ疲労特性を把握することが重要です。これらの特性に及ぼす脱炭・浸炭現象の影響についても研究が進められ、純度管理されたNa環境下では、Na腐食特性を含め、工学的に大きな問題にならないことが明らかにされています。
本研究は、高速炉の設計に用いられる材料強度基準等に反映されています。