図1-28 安定性Csを用いたグラフト捕集材の破過曲線
図1-29 グラフト捕集材を用いたフィールド評価結果
東京電力福島第一原子力発電所事故は、広範にわたり放射性物質を飛散させ、事故後1年余経過後の現在でもセシウム(Cs)汚染による営農停止などが余儀なくされています。私たちはこれら放射性物質のうち、特に水中に溶けているCsに対して親和性の高い高分子除染材料について開発を進めました。これまで可溶性のCsを捕捉するための材料としては、フェロシアン化物やゼオライトなどに実績がありましたが、除染材自体を含め、廃棄物が生成されることが必然だったので、私たちは廃棄物の減容化を考慮した形で進めました。そのため、除染材料を可能な限り繰り返し使用して、除染材料そのものの廃棄物の低減と回収したCs等の減容化を図ることが理想のひとつであると考えました。
除染材料(捕集材)の作製には、耐久性の高いポリエチレン製のフェルト状の生地にCsを捕捉可能な官能基(吸着基)を付与するため、γ線や電子線を用いて機能化する放射線グラフト重合法を活用し、吸着基としてリンモリブデン酸基を導入した捕集材を合成しました(図1- 28中写真)。開発したCs用捕集材の性能は、1 mg/Lの安定Cs溶液を用いたバッチ吸着試験及びカラム吸着試験により評価しました。バッチ吸着試験では、50 mLの溶液に、50 mg(1 cm角)の捕集材を入れ、24時間浸漬すると、Csをほぼ100%捕集することが分かりました。また、カラム吸着試験では、内径7 mmのカラムに47 mgのCs捕集材を充てんし、粒子状や平膜状の材料に比較して50倍程度高速で1 mg/Lの安定性Cs溶液を通液させた結果、水圧による損失を軽減可能な布状の基材を適応した効果から捕集材体積の3000倍量までCsを吸着除去できることが確認できました。その時点の捕集量(破過容量)は、捕集材1 kg当たり54 gとなり、0.4 mmol程度の捕集能力があることが分かりました(図1- 29)。捕集材を用いたフィールド試験は、福島県内の学校プール水などで評価を進めた後、福島県飯舘村内の溜池で実施しました。試験には、可溶性Csが10 Bq/L程度溶存している観賞用池の溜め水を用い、捕集材体積(約50 mL,0.05 m2)の2000倍量に相当する水量100Lの処理を行った結果、溶存する放射性Csを検出限界以下まで除去することに成功しました(図1-29)。
本研究は、文部科学省からの受託研究「高分子捕集材を利用した環境からの放射性物質回収・除去技術等の開発」の成果の一部です。