1-5 環境中の放射性物質の詳細分布を調べる

−土壌沈着量分布マップ・空間線量率分布マップの作成−

図1-10 137Csの土壌沈着量分布マップ

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図1-10 137Csの土壌沈着量分布マップ

1地点で5個採取した土壌試料の分析結果を平均し、2011年6月14日時点の値に換算してマップ上に色で示しています。

東京電力福島第一原子力発電所事故では、大量の放射性物質が大気中に放出され、広い範囲の土地に放射性物質の沈着が起きました。放出された放射性物質による環境や人への影響を長期にわたり正しく評価し、適切な対策を講じるために、放射性物質の沈着量や空間放射線量率の詳細な分布を把握することが必要とされます。事故直後から文部科学省やその他の多くの機関により多数の環境モニタリングが実施され、多くの環境放射線・放射能データが蓄積されました。しかし、これらのデータは測定手法,精度,測定場所,測定時間等がまちまちで、蓄積されたデータを集約してマップを作成するのは難しい状況にありました。

そこで、行政側と研究現場側の双方から、信頼の置ける大規模な環境調査結果に基づく放射性物質分布マップ等を作成することが急務であるという提案がなされました。このような状況のもと、原子力機構が多くの大学や研究機関等と協力しマップ作成事業を実施しました。当事業では土壌試料の採取には400名以上、土壌試料の分析には300名以上の参加者がありました。

2011年6月上旬に開始した当事業では、土壌試料を約2200地点で採取し分析を行うことで、137Cs,134Cs,131I, 129mTe,110mAg,238Pu,239+240Pu,89Sr,90Srに関する土壌沈着量分布マップを作成しました。また、土壌採取地点における地上1 mの空間線量率マップ、更には自動車に走行測定システムを搭載して17000 kmにわたり測定を行い、道路上の空間線量率マップを作成しました。

図1- 10は、単位面積当たりの放射能量を示した、137Csの土壌沈着量マップです。福島サイトから北西方向に高い濃度の地点が存在すること、福島県中央部の中通りの部分の濃度が相対的に高いことなどが明確に見てとれます。また、事故初期の被ばくで重要な核種である131Iについても、観測地点はCsほど多くはないが、貴重なマップを作成しました。

これらの結果は、事故影響の評価や対策のための基礎データとして広く参照されています。原子力機構では、マップ事業の成果をデータベースとして管理、公開して行く予定です。また、汚染状況の経時変化を明らかにし将来予測につなげるための研究を継続して実施し、今後の対策などに役立てる予定です。

本研究は、文部科学省平成23年度科学技術戦略推進費による受託研究「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故に伴い放出された放射性物質の分布状況等に関する緊急調査研究」の成果の一部です。