1-9 土壌をきれいにしたい

−土壌の原位置加熱による放射性セシウムの除去可能性の検討−

図1-17 加熱温度ごとの137Csの放射能量変化率

図1-17 加熱温度ごとの137Csの放射能量変化率

土壌サンプル中の放射性137Csの加熱前後の放射能量を測定することにより放射能量変化率を評価しました。
(放射能量変化率=(加熱後の放射能量−加熱前の放射能量)/加熱前の放射能量×100)

 

図1-18 加熱温度ごとのエックス線回折結果

図1-18 加熱温度ごとのエックス線回折結果

Csを含む土壌を加熱することによりCsが土壌中のナトリウムアルミニウムケイ酸塩(NaAlSi3O8)や二酸化珪素(SiO2)と反応し、セシウムアルミノケイ酸塩(CsAlSiO4等)の安定な化合物を形成することが確認されました。

 

図1-19 土壌表面温度の経時変化

図1-19 土壌表面温度の経時変化

携帯バーナーで原位置における土壌を比較的高温に加熱するためには15分以上加熱が必要であり、上昇温度は最大でも700 ℃程度でした。

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い、放射性物質によって広範囲の土壌が汚染され、様々な環境修復策が検討されています。土壌を汚染している主な放射性物質は放射性セシウム(Cs)であることから、Cs化合物の比較的低い温度における高い揮発性に着目した加熱除去方法が考えられます。そこで、放射性Csの加熱による除去の可能性を調べるために、放射性Csを含む環境中の土壌を用いたるつぼ規模の加熱試験を行い、放射性Csの揮発挙動を評価しました。また、土壌を加熱する方法として、大型機械を導入しなくても住民自ら作業が可能となるバーナーなどによる加熱方法が考えられ、実際に土壌を直接携帯型バーナーで加熱する土壌温度の確認試験を行いました。

図1- 17にるつぼ試験による加熱温度ごとの137Csの放射能量の変化率を示します。600〜1300 ℃の温度条件範囲における放射能量変化率は、-12.0〜13.5%の範囲でばらついている程度であり、顕著な揮発挙動は認められませんでした。

また、加熱による土壌の成分とCsとの反応性を確認するため、600〜1300 ℃の加熱温度での「土壌サンプルとの炭酸Cs試薬混合物(重量比2:1)」の結晶構造の分析を行いました。その結果、加熱によりCsが土壌中のNaAlSi3O8やSiO2と反応し、CsAlSiO4等の安定な化合物を形成することを確認しました(図1- 18)。

次に、バーナーを用いた加熱による土壌表面温度の経時変化を図1- 19に示します。携帯型のバーナーでは土壌を比較的に高温にするためには約15分以上必要であり、土壌の最大加熱温度は700 ℃でした。さらに、その範囲はスポット的であり、相当な時間をかけなければ広範囲を加熱することはできないことが分かりました。

以上からバーナーによりスポット的に土壌を比較的高温まで加熱することは可能であるが、Csは土壌成分と反応して安定な化合物を形成し、土壌に留まることが分かりました。