図1-20 固化土壌片
図1-21 ポリイオン複合体の膨潤
図1-22 福島県伊達市霊山町小国での土壌の除染試験
ポリイオン粘土法とは、汚染土壌に対して、除染(表土除去)や再汚染防止(Cs封じ込め)を目的として行う表層土壌処理法のひとつです。この方法は、田畑,里山(人里近い森林)などの広大な地域を対象にした長期的な除染(時間をかけて行う除染)に有効です。
ポリイオン粘土法では、ポリイオンと呼ばれるイオン性のポリマーが形成するポリイオン複合体(ゲル状物質)が表層土壌を粘着・固化し、粉塵や表層泥水の発生を抑制するとともに、粘土のCsを吸着・固定化する性質を利用して、放射性Csの移行・拡散を防ぎます。また、ポリイオンも粘土も大量調達が可能で安全な物質です。ポリイオンはチェルノブイリ事故後の粉塵抑制に用いられ、粘土は懸濁液を壁面などに塗布して用いられた実績があります。しかしながら、ポリイオンは土壌からの粉塵・泥水の抑制はできても十分にCsを固定できず、粘土はCsを強く固定できても乾けば砕けて飛散します。ポリイオン粘土法は、両者の利点を活かし、かつ互いの欠点を解消する組合せです。
ポリイオン粘土法の最大の特徴は、環境中での長期的な耐性です。ポリイオン複合体は、乾燥すると固化し水で軟化・膨潤する性質がありますが、非常に粘性が高いために雨によって流出しません。また、乾いていても湿っていても粉塵発生を効果的に防止します。このような性質により、長期間にわたって高汚染場所の表層土壌中のCsを封じ込め、高汚染場所からのCsの飛来・流入による再汚染を防止します。図1- 20は、ポリイオン複合体によって固化した畑土壌の写真です。また、図1- 21は水で膨潤したポリイオン複合体の様子です。一方、粘土は、長期間Csを固定できるだけではなく、粘土質の少ない土壌で、Csが土壌の深い場所にまで浸透してしまった場合に、サクションと呼ばれる現象を利用して表層にまで吸い上げます。サクションとは、水で膨潤した粘土微粒子が乾燥・収縮する際に、土壌空隙に入り込んだ懸濁液を毛細管現象によって吸い上げる効果をいいます。風や太陽光にさらされる表面の乾燥は早く進み、土壌内部の乾燥は遅れるために起こる現象です。ポリイオン複合体を利用した除染方法は、2011年7月に福島県伊達市霊山町小国の公民館の土壌1500 m2を対象に試験されました。その結果、表層土壌2 cmの剥ぎ取りによって、85〜90%の除染率が得られました(図1- 22)。