3-3 放射性廃棄物処分場における湧水抑制に挑む

−グラウト浸透モデルの適用性に関する研究−

図3-9 平行平板試験装置(上方から撮影)

図3-9 平行平板試験装置(上方から撮影)

ミリ単位でスリット状の隙間を設定できる2枚のアクリル板の中に一方向にグラウト材を注入し、その浸透距離を目視観察するとともに、圧力計で注入圧力の変化を測定しました。

 

図3-10 亀裂内でのグラウトの流れ

図3-10 亀裂内でのグラウトの流れ

グラウト材注入の際には、岩盤中の亀裂に地下水圧力以上の圧力をかけることで、注入対象とした亀裂にグラウト材を注入します。グラウト材が亀裂内に浸透した距離を浸透距離(L )とし、この距離をモデルで表現しました。

 

図3-11 理論式と室内試験による浸透距離の経時変化の比較

図3-11 理論式と室内試験による浸透距離の経時変化の比較

グラウト浸透モデルで計算された亀裂断面内の平均的なグラウト材の浸透距離は、目視による浸透距離と圧力計により求められた浸透距離の間にプロットされ、これらの試験結果と整合することが分かりました。

高レベル放射性廃棄物の地層処分のように、地下深部に処分場を建設する(多くの坑道を掘削する)場合、岩盤中の地下水が湧水として坑道に流れ込むことが考えられます。この対策として、セメントなどの薬液(グラウト材)を岩盤の亀裂に注入・充てんし、岩盤の強度や透水性を改良すること(グラウチング)により、処分場の建設時や操業時の湧水を抑制する効果が期待できます。一方で、グラウト材として用いられることの多い普通のセメントは、高アルカリ性であるため、岩盤が本来備えている放射性核種の移行遅延機能といったバリア機能に悪影響を与えることが危惧されます。そこで、低アルカリ性のグラウト材の開発,グラウト材を必要とされる範囲のみに注入するグラウチング技術,グラウト材の浸透範囲を評価する技術,グラウト材の影響評価技術などの開発に取り組んでいます。中でも、グラウト材の浸透範囲(浸透距離)の把握は、グラウト材が岩盤に与える影響評価のための諸条件を与えるものであり、長期の評価を精度良く行う上で重要なものです。

ここでは、GustafsonとStillによる理論的研究に基づく浸透モデルについて、一次元の室内試験(図3-9)と比較しました。グラウト浸透モデルは、注入されたグラウト材の岩盤亀裂中の先端部(浸透フロント)までの平均的な距離(図3- 10)を理論的に計算するものです。このとき、グラウト材は、降伏値を有するビンガム流体としてモデル化します。

浸透距離の経時変化について、グラウト浸透モデルによる計算結果と室内試験結果の比較を図3- 11に示します。図から、グラウト浸透モデルによる計算結果は、室内試験における二種類(目視と圧力計)の測定結果の中間的な値となっていることが分りました。ビンガム流体を含めて粘性流体の流速は同一断面内においてスリット壁面近傍の流速が小さいため、流体の浸透距離の進展に違いが生じます。

グラウト浸透モデルの曲線が亀裂断面内の平均的な浸透距離を計算していることを考えると、グラウトの浸透モデルの計算結果と室内試験における二種類の測定結果は、整合的であるといえます。

以上のことから、一次元平行平板による室内試験の範囲で、ビンガム流体の浸透距離を予測するグラウト浸透モデルの適用性を確認しました。

本研究は、経済産業省からの受託研究「地下坑道施工技術高度化開発」の成果の一部です。