図3-12 ヘリウム測定用質量分析装置
図3-13 年代測定用試料
図3-14 中央構造線の断層岩
地震や火山活動などの地質事象がいつ起きたかを知るために、放射性元素の壊変を利用した年代測定が行われています。年代測定法の中には、高温のマグマや再加熱された岩石が、ある温度(閉鎖温度)まで(再)冷却してからの経過時間を示すもの(熱年代法)があります。一般的に地下は深部ほど高温ですから、閉鎖温度の異なる熱年代法を組み合わせることで、ある岩石がどのように冷却したのか、すなわち地表が数100万年のうちに急激な地形変動があったのか、それともなだらかで安定した時間が続いたのか、といったことが分かります。急激な地形変動は、頻繁に繰り返される巨大地震との関連も考えられ、処分事業のみならず学術的にも重要なテーマです。
私たちは、地形変動のうち、より最近の地下浅部での変動を捉えることができる単粒子(U-Th)/He法を用いた低温熱年代学を研究しています。まだ新しい手法で、少量のヘリウムを同位体希釈法で精度良く定量する専用装置(図3- 12)は我が国で唯一のものです。ここでは、主にジルコンというわずか0.1 mmほどの鉱物を分析して熱年代を求めます(図3- 13)。
図3- 14は、三重県で採取された、中央構造線という日本最大の活断層の岩石です。シュードタキライトとは地下で断層がずれて地震が起きた時にその摩擦熱でいったん溶けた岩石が、その後急冷してできたものです。一方、マイロナイトは断層がずれることで破壊されていますが、溶けるほどの熱は受けていません。本手法を含む複数の手法を用いて、それぞれ異なる閉鎖温度の熱年代を測定したところ、この岩石は、9千万年前に地下深部で固まり、周囲の岩石と同じ温度になる過程で比較的早く冷え、6千万年前頃起きた巨大な地震でシュードタキライトが形成され、その後は非常にゆっくりと冷却したことが分かりました。その中で、単粒子(U-Th)/He法からは、シュードタキライトが地下5〜10 km程度で生成したことが明らかになりました。これらの過程は、日本列島の現在の地形がどのようにしてできたのか、地下の断層がどのような条件で地震を起こすのかといった疑問を明らかにするための基礎情報となります。
今後は、より少量の試料や異なる鉱物の年代測定を行い、地質環境の将来予測などに必要な地質事象の理解を支える技術の開発を進める予定です。また、瑞浪超深地層研究所の研究坑道試料の測定も予定しています。