図3-22 掘削影響調査位置
図3-23 弾性波トモグラフィ調査結果
トンネルを掘削すると、その周辺には掘削影響領域が発生することになります。この領域では、岩盤の強度と作用する地圧の関係から、岩盤の破壊やそれに伴う透水性の変化など、岩盤の様々な特性が変化します。このようなトンネル周辺における特性の変化は、地層処分で評価する放射性核種の移行挙動にも影響すると考えられるため、この掘削影響を把握することが重要になります。高レベル放射性廃棄物の地層処分技術開発を進めている幌延深地層研究計画では、珪藻質泥岩を対象とした、トンネル周辺に発生する掘削影響領域の発生メカニズムの解明や現象のモデル化が研究課題のひとつに挙げられています。
掘削影響を調査する手法としては、医療のX線CTスキャンのように調査領域の周囲にセンサーを配置して測定することにより、物性値の変化を画像化できる物理探査手法が有効な手段であり、弾性波(地震波)トモグラフィ調査,比抵抗トモグラフィ調査などがあります。このうち弾性波トモグラフィ調査は、探査領域の周囲に多数の発振器と受振器を配置し、領域内を通過する様々な経路の弾性波を観測し、弾性波速度の空間分布を画像化することにより、掘削に伴う岩盤中の割れ目の発生などを弾性波速度分布の変化として面的に捉えることができます。なお、一般に割れ目が発達した岩盤では、弾性波速度が相対的に低下することが知られています。
そこで、幌延深地層研究センターの地下施設の140 m調査坑道にて、掘削に伴う周辺岩盤の掘削影響を把握するために、掘削の進捗にあわせて弾性波トモグラフィ調査を繰り返し実施しました。図3- 22に調査位置の平面図を示します。また、調査結果の一例として、図3- 23に弾性波トモグラフィ調査結果を示します。図を見ると、調査坑道を掘削することにより、坑道壁面から岩盤内部に向かって弾性波速度が低下しており、坑道壁面近傍ほどその低下率は10%以上と大きく、最大25〜30%にも及び、掘削の影響が大きいことが分かります。また、弾性波速度が低下する領域は、坑道壁面から0.5〜1.0 m程度奥まで達していることや、坑道が掘削されたあとも時間の経過とともに微増していることが分かります。
今後も引き続き地下施設の建設を進めながら、複数深度にて掘削影響調査並びに結果の評価を行い、掘削影響のモデル化と影響発生のメカニズムの解明を進めます。