図3-20 地下水中の塩分濃度の変遷(全体)
図3-21 地下300 mにおける地下水中の塩分濃度の変遷
地層処分の何万年以上にもわたる超長期的な安全性が社会に受け入れられるには、地下環境が超長期の間にどのように変化していくかを示すことが大変重要です。その方法として、過去から現在までの地下環境の長期にわたる変化を現象論的に将来へ外挿する方法や、変化のメカニズムの考察に基づいて将来の環境をシミュレーションにより推測する方法があります。本研究では、北海道北部の幌延地域を事例として、沿岸域の堆積岩が分布する地域に適用可能な予測技術の開発を目的に、地質調査から幌延の全域が海面下であったと推定される過去約150万年前から現在までの期間を対象として、地下水の流れと塩分濃度の変遷を数値シミュレーションにより復元しました。
150万年間の超長期間には、隆起・沈降などの地殻変動とそれに伴う地形や地質構造の変化及び気候・海水準の変動が生じます。そこで本研究では、地形や地質構造の形状や岩盤物性の変化といった数値モデルの変化に加えて、気候変動に伴う涵養量や海水準の変動といった入力パラメータの変動も連続的に取り込みつつ、地下水の流れと塩分濃度の解析を可能とする数値解析手法を開発し、幌延地域に適用しました。その結果、隆起に伴い陸地となる地域(図3- 20の「現在」で丘陵部の付近)から徐々に塩分濃度が低下し、淡水化(図中で青色の部分)の進むことが分かりました。また、現在の海岸線の西側にある海底下には、塩分濃度が著しく低い領域の分布することが推測されました(図3- 20の「現在」で沿岸部の付近)。これは、海水準変動で現在の海底が過去に陸地となった時期に、地表面から雨水などがしみ込み、それが現在の海底下に淡水として残ったものと考えられます。また、地下300 mでの地下水の塩分濃度の変化を沿岸部と丘陵部で比べると、ともに隆起に伴い塩分濃度が低下するものの、その変化の傾向は異なります(図3- 21)。沿岸部と丘陵部では約50万年前から隆起速度が増加する設定としています。しかし、両地域の標高が異なるため、海水準変動で海岸線の位置が変化しても海面下にある期間が異なり、その結果、地下水の塩分濃度が異なる変遷を経ると推測されます。
以上の数値シミュレーションで得られた現在の地下水の塩分濃度は、現地での物理探査やボーリング調査により確認されつつあり、本研究により将来の地下環境を推測する技術的な見通しを高めることができました。