3-9 地下深部における初期地圧の把握を目指して

−水圧破砕法による三次元的な初期地圧測定−

図3-24 調査坑道における各主応力の下半球投影図(ウルフネット)

図3-24 調査坑道における各主応力の下半球投影図(ウルフネット)

σ1,σ2,σ3はそれぞれ最大,中間,最小主応力です。140 m調査坑道では2地点、250 m調査坑道では3地点にて初期地圧測定を実施しました。下半球投影図は、各主応力の方向線が球の中心をとおり、球体の下半球面と交差する点を赤道面上に投影した等角投影図です。

 

図3-25 水平面内最大主応力方向の深度分布

図3-25 水平面内最大主応力方向の深度分布

HDB-1,HDB-3,HDB-6及びHDB-11のデータは、地上からの調査で得た水平面内最大主応力の方向です。また、調査坑道のデータは、得られた三次元主応力を水平面内に展開した最大主応力の方向です。これらは両者ともおおむね東西方向が卓越し、地層境界による影響は認められません。

地下深部の岩盤には、岩盤の自重や地殻変動などにより、初期地圧と呼ばれる応力が生じています。初期地圧は、地下構造物の支保部材の仕様や、空洞の方向などを決定する上で重要な情報であることから、その設計段階で的確に把握することが必要です。

私たちは、現在進めている幌延深地層研究計画の中で、地下研究施設建設前に地上からの深層鉛直ボーリング調査孔(520〜1020 m)を利用して、水圧破砕法により初期地圧を測定しました。この方法はボーリング孔軸方向(鉛直方向)を主応力方向のひとつと仮定して、各主応力を求めるものです。ただし、地下研究施設周辺は褶曲作用を受けた背斜軸の翼部にあたり地層が傾斜しており、鉛直方向を主応力のひとつとした仮定が成立しない懸念がありました。そこで、地上からのボーリング孔を用いた地下深部の初期地圧の調査結果を評価するために、地下研究施設の複数の深度において、水圧破砕法を用いた空間的な初期地圧を調査しています。具体的には地上からの調査とは異なり、1測定地点にて方向の異なる3本のボーリング孔を用いて初期地圧測定を行うことにより、主応力方向の仮定を一切せずに、三次元の主応力の大きさと方向を求めます。深度140 mと250 mの調査坑道で実施した、初期地圧測定による各主応力の下半球投影図を図3- 24に示します。140 m調査坑道では、主応力のひとつがほぼ鉛直方向を示し、地上からの調査における仮定は妥当と評価できました。一方、250 m調査坑道では、最も鉛直方向に近い主応力でさえ、鉛直軸から35〜39 °傾き、地上からの調査における仮定と異なる結果でした。この原因としては、250 m調査坑道は地層境界付近にあり、局所的に主応力分布が変化していることが考えられます。地上からの調査と調査坑道における初期地圧測定による水平面内最大主応力方向を図3- 25に示します。両者はおおむね一致(東西方向が卓越)しており、地上からの調査で地下深部の水平面内最大主応力の方向を正しく評価できる可能性が認められました。

今後、更に異なる深度において初期地圧測定を行い、地上からのボーリング調査による地下深部の初期地圧の予測結果の評価を行うとともに、初期地圧分布と地質構造との関係を考察していきます。