図5-8 次世代HKED装置の概念図
図5-9 蛍光X線の応答スペクトル
核物質の計量管理は保障措置上の重要な課題です。核物質の濃度測定では、一般に質量分析器による破壊分析が用いられています。しかしながら、分析の簡便さや迅速性、また、分析で排出される廃棄物の発生量の低減などの観点から、非破壊での測定が望まれています。特に、溶液中の核物質の非破壊測定では、ハイブリッドK吸収端濃度計測法(HKED)が用いられており、原子炉や再処理施設等において、ウランやプルトニウムなどの濃度測定に使用されています。
従来のHKED装置では、X線管を用いて生成した制動放射X線を入射光源として使用します。制動放射X線は連続エネルギーのため、非弾性散乱に起因するバックグラウンドが増加し、測定精度へ影響を与えます。しかしながら、入射光源としてエネルギー単色性の高いX線を用いれば、バックグラウンドを軽減し、効率の良いK吸収や蛍光X線の計測が期待できます。そこで、私たちは入射光源に単色X線を用いる次世代HKED装置を考案しました(図5-8)。
次世代HKED装置の性能を評価するため、電子・光子輸送電磁カスケード計算による蛍光X線の応答スペクトルの分析を行いました(図5-9)。単色X線を用いることにより、プルトニウムの蛍光X線(PuKα1)のピーク強度が高くなるため、従来の制動放射X線を用いる方法と比べ、全計数及びPuKα1領域のバックグラウンド計数に対するPuKα1の強度比が共に向上することが明らかになりました。同様に、入射X線の吸収スペクトルにおいても、単色X線を用いることにより、非弾性散乱によるバックグラウンド計数を軽減でき、全計数に対するウランのK吸収端領域の計数を高めることができます。これらの結果、従来の方法と比べ、短時間に高精度での計測が可能になることが分かりました。
また、溶液中に微量に含まれるネプツニウムの分析は、従来のHKED装置では、PuKα1に起因するバックグラウンドが高くなるため困難でした。一方、次世代HKED装置では、単色X線のエネルギーをネプツニウムとプルトニウムのK吸収端の間に合わせることにより、PuKα1の影響を受けずに、ネプツニウムの蛍光X線を計測できることが分かりました。本成果を基に、原子炉や再処理施設などにおいて、溶液中の核物質の迅速かつ高精度での非破壊濃度計測が可能になることが期待されます。