図5-5 炭素薄膜へ高強度レーザーを照射したときの電子密度分布を示すシミュレーション結果
図5-6 γ線の放射角度分布
図5-7 γ線発生の最適条件
近い将来、出力が10 PW(=1016 W)、集光強度が1024 W/cm2にも及ぶ高強度レーザーが実現しようとしています。このようなレーザーを物質に照射する場合、放射反作用の効果が無視できなくなると予想されます。放射反作用は、荷電粒子が加速度運動する際に電磁波を放出し、その反作用としてエネルギーを失う効果です。円形加速器中の電子のように単純な軌道を描く単一の電子に対してはその効果を比較的容易に見積もることができます。しかし高強度レーザーを物質に照射した場合、物質中では多数の電子が互いに相互作用しながら複雑な運動を行うため単一電子に対する見積もりとは大きく異なると予想されますが、まだ解明はされていませんでした。
今回、放射反作用を考慮したシミュレーションコードを新たに開発し、高強度レーザーと物質との相互作用における放射反作用効果の定量的解明を行いました。特に、放射反作用を考慮することで解明が可能となる電子を介したレーザーから放射へのエネルギー変換に着目することで、レーザーにより非常に出力の高いγ線を発生できることを初めて明らかにしました。
図5-5は出力10 PWのレーザーを厚さ10 μmの炭素薄膜に照射したときの電子密度分布を示したシミュレーション結果です。加速された電子のエネルギーは最大400 MeVに及び薄膜前面及び裏面から放出されます。その一部は空間電荷効果によりレーザー場が分布する領域に戻ってきて、再度加速を受けγ線を放出します。最適な条件下では、照射レーザーの約30%のエネルギーがγ線に変換され、出力が3 PW、時間幅がレーザーと同程度(30 fs)と極めて高出力かつ短パルスのγ線が発生することが明らかとなりました。発生するγ線は図5-6に示すように、レーザー照射軸方向に指向性を持っていることも分かりました。また、γ線強度や光子数,光子エネルギー等がレーザー及びターゲット条件にどのように依存するかを解明することで(図5-7)、それらを調節することにより発生γ線の特性を制御できることを明らかにしました。
今回、放射反作用による超高出力γ線発生を見いだしたことでレーザー駆動の新しいγ線源の可能性が拓けました。特に発生するγ線出力は、ほかのγ線発生装置から得られるものと比較して桁違いに大きく、新しいγ線応用等への発展が期待されます。