図5-12 金属格子が面心立方構造で水素濃度が異なる三つの水素化物の構造
図5-13 LaD2の高圧力下13万気圧における回折パターン
希土類金属は水素との親和性が極めて高く、水素との化合物である水素化物を容易に形成します。金属水素化物中で水素原子が位置する金属格子間サイトには、金属原子が四面体に配置したTサイトと八面体に配置したOサイトの二種類があります。希土類金属では水素原子がTサイトを占有した2水素化物(図5- 12中央)と、更にOサイトも占有した3水素化物(図5- 12右)が形成されることが知られています。しかしOサイトだけを占有した1水素化物(図5- 12左)は遷移金属やアルカリ金属の水素化物では形成されますが、希土類金属では存在しないと考えられてきました。
私たちは、SPring-8において希土類金属水素化物の高圧力下放射光X線回折実験を実施し、ランタン2水素化物(LaH2)が11万気圧の高圧力下で金属格子の大きさが異なる二つの面心立方構造の状態に分かれる「圧力誘起相分離現象」を見いだしました。二つの状態の格子体積から、高圧力下でLaH2が水素濃度の低い状態と高い状態とに分れたと推測できます。しかしX線では水素の位置が分からないため、金属格子内で水素原子の占有状態が分かりませんでした。そこでJ-PARC/MLFにおいて、我が国では困難であった10万気圧を超える高圧力下での中性子回折実験手法を開発し、重水素化物LaD2に対して相分離後の水素占有状態を調べました。
低重水素濃度状態からの回折パターンに注目すると、X線回折では重水素は無視できるため金属格子が作る面心立方構造を反映した回折パターンが観測されます。しかし、中性子回折ではこのうち奇数で表される指数の回折強度が観測されないことが分かりました(図5- 13)。これはランタンと重水素の中性子散乱長が近い値のため、構造因子の計算からランタンと重水素がNaCl型に配列した構造で説明ができます。NaCl型構造はすべてのOサイト中心に重水素原子が位置している構造です(図5- 13左)。本研究でX線と中性子を相補的に利用することによって、世界で初めてNaCl型構造を持つ新しい希土類金属水素化物の形成が確認できました。これにより、希土類金属水素化物は異なる三種の水素占有状態を同じ金属格子構造で形成できることが明らかになりました。これはすべての金属水素化物で初めてのことです。
本研究は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「水素貯蔵材料先端基盤研究事業」の成果の一部です。