図5-15 ポリ乳酸の電子線ナノインプリントリソグラフィ法
図5-16 ポリ乳酸微細構造体の原子間力顕微鏡画像と熱安定性
地球環境保全に向けた研究開発が様々な分野で進んでおり、循環型社会の構築の観点から石油由来のプラスチックを植物由来のものに置き換えることが望まれています。植物原料由来のポリ乳酸は、その有力な候補のひとつとして、強度,透明度や融点が高いことから注目されていますが、熱変形温度が低いという弱点がありました。そこで、私たちは、橋かけ剤を探索して最適な照射条件を見いだし、放射線橋かけによるポリ乳酸の耐熱変形性を向上させる技術を開発しました。
この技術を微細光学部品,ラボチップ材料などへ応用することを目的として、電子線ナノインプリントリソグラフィ(EB-NIL)法を用いたポリ乳酸微細構造体の作製について検討しました。図5- 15に示すように、EB-NIL法は、四つの工程から構成されています。(a)塗布処理:Si製の鋳型(モールド)上にポリ乳酸とトリアリルイソシアヌレート[混合比95:5]の混合物をクロロホルムで希釈した混合溶液を塗布して薄膜を作製します。(b)加圧転写処理:作製した薄膜をモールド内部に充てんさせ転写します。(c)照射処理:電子線を10〜500 kGy照射して橋かけします。(d)剥離処理:モールドからポリ乳酸微細構造体を剥離します。100〜200 kGyの電子線を照射して作製した微細構造体は、高い転写精度を持っていました。
図5- 16に示すように「Green polymer」のパターンを持つポリ乳酸微細構造体を作製しました。未橋かけのポリ乳酸単独の微細構造体は、70 ℃で加熱すると時間の経過とともに形状が保てなくなります。一方、EB-NIL法で作製した微細構造体は、24時間加熱しても形状を保ち、更に医療・バイオ分野でのラボチップ材料への利用を考慮した滅菌温度の120 ℃で10分間処理しても形状を保持していました。マイクロ/ナノサイズのポリ乳酸微細構造体においても放射線橋かけによる熱変性抑制の効果が十分に得られることが分かりました。
今後は、エレクトロニクス、医療・バイオ分野への貢献を目指し、微細光学部品やラボチップ材料の開発に結び付けていきたいと考えています。
本研究は、早稲田大学、大阪大学との共同研究として行い、一部は、文部科学省ナノテクノロジーネットワークプロジェクトの支援の下、大阪大学複合機能ナノファウンダリにて実施いたしました。