6-3 火災時の放射性物質の閉じ込め安全性を評価する

−可燃性物質の燃焼特性データの取得と換気系フィルタの目詰まり特性の評価−

図6-7 火災時ソースターム実験装置の概要

図6-7 火災時ソースターム実験装置の概要

外部からの輻射熱量,給気中酸素濃度や給気流速をパラメータとして、燃焼物の重量変化,模擬放射性物質及び煤煙の放出重量,煤煙付着によるHEPAフィルタの差圧上昇等のデータを関連付けながら取得できます。

 

図6-8 HEPAフィルタの差圧上昇の時間的進展の評価例

図6-8 HEPAフィルタの差圧上昇の時間的進展の評価例

燃焼物質ごとにHEPAフィルタの差圧上昇が引き起こされる時間が大きく異なることが分かりました。このような評価により、事故を安全に収束するための時間的猶予の定量的把握に役立てることができると考えています。

核燃料サイクル施設での火災時には煤煙及び放射性物質が放出され、高性能エア(HEPA)フィルタによる濾過を経て施設外へ放出されます。そのため煤煙の目詰まりによりHEPAフィルタの差圧が上昇し、破損すなわち閉じ込め機能の喪失が生じる恐れがあります。この閉じ込め機能の喪失に至るまでの時間を定量的に評価するため、火災時ソースターム実験装置(図6-7)を設計・製作し、代表的な可燃性物質であるグローブボックスパネル材(アクリル及びポリカーボネート)及びケーブル材料(エコマテリアルケーブル及び高難燃ノンハロゲンケーブル)を対象とした燃焼試験を実施しました。試験体の燃焼速度や煤煙化率(燃焼質量に対する煤煙質量の割合)等の燃焼特性データとHEPAフィルタの差圧上昇データを、試験体に対する給気流速や外部からの輻射熱量等をパラメータとして相互に関連付けながら取得しました。

その結果、煤煙の放出挙動やHEPAフィルタの差圧上昇は、燃焼物質ごとに大きく異なることを確認しました。例えばアクリルは、燃焼速度が最も高い一方で煤煙化率は最も小さい(つまり同じ量が燃焼しても放出される煤煙の重量が最も少ない)こと及び煤煙の粒子径が最も小さく同じ量の煤煙が付着した場合で比較すると最も速くHEPAフィルタの差圧上昇を引き起こすことが分かりました。また、高難燃ノンハロゲンケーブルの燃焼では、HEPAフィルタへの煤煙付着量が少量の範囲では差圧上昇は緩やかである一方、付着量が増加すると急激な差圧上昇を引き起こすことも確認しました。

これらのデータを組み合わせることで、HEPAフィルタの差圧上昇の時間的進展を評価しました。図6-8は各物質(アクリル以外については外部から40 kW/m2の輻射熱を照射、アクリルは非照射)が直径50 cmの円に相当する燃焼面積で燃焼するものと仮定した評価結果です。アクリルは燃焼速度が最も大きいにもかかわらず1.5時間以降では、差圧上昇が最も緩やかな結果となりました。一方、高難燃ノンハロゲンケーブルは、煤煙の付着が進むと急激に差圧が上昇する結果となりました。

このように、施設に存在する可燃性物質の燃焼特性に基づいて、火災時のHEPAフィルタ破損に至るまでの評価ができる見通しを得ました。

参考文献は、独立行政法人原子力安全基盤機構からの受託研究「平成21年度火災時エアロゾル評価試験」の研究成果をまとめたものです。