8-3 原子炉崩壊熱のより良い推定のために

−核データライブラリJENDL/FPD-2011及びJENDL/FPY-2011−

図8-9 熱中性子による235Uの核分裂後の崩壊熱の時間推移

図8-9 熱中性子による235Uの核分裂後の崩壊熱の時間推移

崩壊熱(単位時間当たりの放出エネルギー)はその性質上時間とともに指数関数的に減少しますが、縦軸を対数にしないために横軸の時間を掛けて表しています。したがって、上記のグラフのようにある経過時間でピークを持つような構造ではないので、誤解のないようにして下さい。誤差棒がついているのが実験値です。計算値は実線です。その誤差は点線で計算値の上限,下限を示します。

 

図8-10 崩壊熱に対する計算誤差の要因

図8-10 崩壊熱に対する計算誤差の要因

崩壊熱計算における崩壊エネルギー,半減期,核分裂収率に由来する誤差及び全体の誤差を示します。核分裂直後(0.1秒以下の領域)を除くと放出される放射線エネルギーの誤差が支配的なことが分かります。

原子炉が停止したあとにも、使用済核燃料には大量の放射性物質が存在しています。この放射性物質が放出する放射線が吸収され、熱に変わったものが崩壊熱です。この放射性物質の大部分は、核分裂生成物(FP)であり、UやPuの核分裂により作られます。FPは半減期の非常に短いものも含めると約千種類にも上ります。これらのFPの生成量や崩壊熱を予測・推定しようとするとFPの半減期や放出エネルギー、核分裂で生成される割合といった核データが必要になります。これらのデータをまとめ使用済燃料の放射能や崩壊熱の計算に利用できるようにしたデータベースがJENDL FP Decay Data File 2011(JENDL/FPD-2011)とJENDL Fission Yields Data File 2011(JENDL/FPY-2011)です。前者のFPD-2011にはFPの半減期,放出エネルギー及びその内訳等が、後者のFPY-2011には1回の核分裂で作られるFPの生成量(核分裂収率:Fission Yields)が、様々な種類の核分裂に対してまとめられています。これらのデータベースには最新の知見が反映されるとともに誤差データも収納されています。

図8-9に示したのは235Uの熱中性子による核分裂が瞬時に起きたときの崩壊熱を核分裂後の時間を横軸に取って表しています。半減期の短い核種が多数寄与する核分裂後の短い時間の崩壊熱計算値は測定値を良く再現するとともに誤差も測定値をカバーするようになっています。図8- 10はその誤差の由来を示しています。ほとんどの経過時間において、FPから放出される放射線エネルギーの誤差が支配的なことが分かります。

原子炉崩壊熱の研究は原子力利用が始まった直後から実施されてきました。当初は実測値に基づく経験式等を用いていましたが研究の進展に伴い、個々のFPの寄与から崩壊熱を推定する総和計算が発展してきました。これまでは、約千種類にも及ぶFPの半減期や放出エネルギー等の核データには良く分からないところもあったのですが、これらのデータの整備も進むとともに、総和計算の誤差の由来、内訳も分かるようになり、今後の核データ整備の重点化への指標を与え、精度や信頼性が更に向上することが期待されます。