8-4 燃料設計のためのデータベース構築に向けて

−ZrN を希釈材としたTRU 窒化物固溶体の熱伝導率評価式の作成に成功−

図8-11 (Zr0.58Pu0.21Am0.21)N焼結体

図8-11 (Zr0.58Pu0.21Am0.21)N焼結体

グローブボックス内で撮影した直径約3 mmの高密度焼結体です。

 

図8-12 ZrNを希釈材としたTRU窒化物固溶体の熱伝導率

図8-12 ZrNを希釈材としたTRU窒化物固溶体の熱伝導率

熱伝導率の評価を行うため、理論密度に換算して比較しています。

 

図8-13 873 Kにおける熱伝導率のZrN含有率依存性

図8-13 873 Kにおける熱伝導率のZrN含有率依存性

各測定温度においてZrN含有率依存性を評価することで、熱伝導率評価式を作成することができます。

 

図8-14 (ZrxPu(1-x)/2Am(1-x)/2)Nの熱伝導率評価式

図8-14 (ZrxPu(1-x)/2Am(1-x)/2)Nの熱伝導率評価式

A,B,Cは温度の関数で873 K以上で実験値と良く一致します。

原子力発電所の使用済燃料には、長寿命放射性核種であるマイナーアクチノイド(MA:Np,Am,Cm)が含まれており、その処理方法が長期にわたる原子力エネルギー利用の課題のひとつとされています。その中で、加速器駆動変換システム(ADS)を用いた長寿命核種の核変換技術は課題解決の有力候補のひとつです。

ZrNを希釈材としたMAやPuを含む窒化物(TRU窒化物)固溶体はADS燃料の候補材料として提案されており、実用燃料設計のために必要な熱伝導率データベースの整備は急務となっています。このような背景から、ZrNを希釈材としたTRU窒化物固溶体を調製し、熱拡散率と比熱を実測した上で熱伝導率を算出し、温度及びZrNの含有率をパラメータとした熱伝導率評価式を作成しました。

(1)原料酸化物の炭素熱還元によるTRU窒化物調製 (2)Zr金属から水素化物経由で調製した高純度ZrNとの混合・加熱 (3)微粉砕・加圧成型後のN2-4%H2気流中での焼結という工程を経て、ZrNを希釈材としたTRU窒化物固溶体の高密度焼結体を作製しました(図8- 11)。作製した焼結体を用いて、レーザフラッシュ法により熱拡散率を、投下型熱量計により比熱を測定し、その測定値から熱伝導率を算出しました。

ZrNを希釈材としたTRU窒化物固溶体の熱伝導率(図8- 12)は、通常の酸化物燃料等とは異なり、温度上昇に伴って増加することが分かりました。これは窒化物固溶体の特徴として、熱伝導において電子伝導の寄与が大きいためと考えられます。また、ZrNを希釈材として用いることで、熱伝導率は更に増加するため、ZrNを希釈材としたTRU窒化物燃料は熱的特性に優れた燃料と言えます。

各測定温度における熱伝導率のZrN含有率依存性(図8- 13)を評価することで、(ZrxPu(1-x)/2Am(1-x)/2)Nの熱伝導率評価式(図8- 14)を作成しました。この評価式は実験結果を良く再現するとともに、炉心設計に必要とされるZrN含有率(60〜80mol%)においては、TRU組成によることなく熱伝導率を実用的な精度で予測できることを示しました。以上のように、ZrNを希釈材としたTRU窒化物固溶体の熱伝導率と比熱を世界で初めて取得し、熱伝導率の評価式を作成することにより、実用燃料設計のために必要なデータベースの構築が飛躍的に前進し、今後のADSの炉心設計及び燃料開発に大いに貢献することが期待されます。