図8-15 使用済燃料中の79Se及び135Cs測定までの分析操作
図8-16 79Se及び135Cs分析フロー
図8-17 79Se及び135Csの実測値と理論計算値との比較
使用済燃料の再処理に伴って発生する高レベル放射性廃棄物(HLW)には、数万年以上の長い半減期を持つ放射性核種(長寿命核種)が含まれています。HLWの地層処分における安全評価では、HLW中に含まれる長寿命核種のうち79Se及び135Csが、数万〜数百万年後にHLW処分場に由来する公衆の被ばく線量の大部分を占めると推定されているため、79Se及び135CsのHLW中存在量を正確に把握することが不可欠になります。しかしながら、79Se及び135Csは難分析核種であるため、世界的に分析実績が少なく、処分安全評価に利用される理論計算に必要な核データの信頼性が十分に検証されていません。特に79Seは、使用済燃料中にごくわずか(燃料1 t当たり約6 g程度)しか含まれていないことに加え、測定装置の感度が低いことから、正確な分析値を得るには多量の放射能を含む分析試料が必要になります。
私たちは、従来の79Se及び135Cs分析法を大幅に改良し、分析操作の負担を軽減する合理的な分析方法を開発しました(図8- 15)。本方法では、1回の陽イオン交換操作でSeとCsを相互に分離し、同時に強い放射能を持つ核種(90Sr,90Y,137Cs,137mBa等)を除去します(図8- 16)。得られた79Se及び135Cs測定溶液中には、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)における測定妨害成分(158Gd等)が検出されなかったことから、前処理を単純化した場合でも十分に正確な値が得られることが分かりました。
実測された使用済燃料中の79Se及び135Cs生成量を燃焼・崩壊計算コードORIGEN2(最新の評価済み核データライブラリJENDL-4.0を使用)により算出された生成量と比較したところ、79Se及び135Csの実測値と計算値は、実測値の不確かさの範囲内で一致しました(図8- 17)。したがって、ORIGEN2による使用済燃料中核種生成量の評価が十分な予測精度を有することが実証されました。
本方法は、難分析核種である79Se及び135Csの分析操作上の特殊性を排除することにより、国内使用済燃料中生成量の実測を初めて可能としました。また、計算による79Se及び135Cs生成量評価の妥当性を示したことから、計算に基づく安全評価の信頼性向上に貢献しました。
本研究は、電力会社11社からの受託研究、電力共通研究「高レベル放射性廃液中の難分析長寿命核種のインベントリ評価に関する研究(第 I 期)」の成果の一部です。