図11-4 非自明なトポロジーを持つ橋の例
図11-5 熱伝導率の面内依存性
固体は、電流の流れやすさの順番に、金属,半導体,絶縁体の三種類に分類できることが知られています。しかし最近、内部は絶縁体で表面が金属であるという四種類目の奇妙な固体 (トポロジカル絶縁体) が発見されました。しかも、それはトポロジーという数学によって特徴づけられるため多くの研究者が注目しています。さらに、その物質群は、熱起電力が高い等の性質をも有し、廃熱から電気を高効率で取り出す材料として、工学的にも注目されています。
トポロジーとは、形状が連続的変化で移り変われるもの同士を同一視する数学です。例えば、図11-4のような橋は非自明なトポロジーを持ち、普通の橋とはトポロジカルに区別されます。このトポロジーによって従来の固体と区別されるのが上述のトポロジカル絶縁体です。
最近、Bi2Se3というトポロジカル絶縁体が3 Kで超伝導となることが発見されました。トポロジーにより分類される四種類目の固体の超伝導は新しく、新規の機能材料として期待できます。特に、超伝導という性質からエネルギー損失を抑えることが可能となるため、人が立ち入れない極限環境下で長時間動作可能な自立型デバイスの材料として有望です。しかし、この超伝導体 (トポロジカル超伝導体)が一体、どのような物性を示すかは分かっていません。そこで、私たちはBi2Se3を対象に、既存の超伝導との相違点を調べました。その際、Bi2Se3内で電子が超高速で飛び回っていることに着目し、相対性理論を応用することで、超伝導体のトポロジーによる分類が容易にできることを明らかにしました。相対性理論が、図11-4の橋のような「ひねり」をトポロジカル超伝導体から見いだしたのです。
相対性理論の方程式の超高速粒子に関する記述を利用し、更に私たちは、熱伝導率を計算する理論を構築し、トポロジカル超伝導体では、超伝導転移温度以下で一つの結晶軸面内の熱伝導率に劇的な異方性が現れることを明らかにしました(図11-5)。これは、時空の 「ひねり」の方向によって特定方向の空間軸が他の軸と明瞭に区別されることに起因しています。
本研究は、超伝導体でもトポロジーという数学による分類が重要であることを示唆した成果です。今後、この新しい分類により予言される全く新しい性質とその応用が探索されることで機能材料研究の幅が大きく拡がり、新たな素材やデバイスの開発が可能になると期待されます。