13-11 ラドン温泉の効果を調べる

−吸入したラドンの体内での挙動とそれに伴う生体の応答−

図13-24 ラドン吸入試験設備

図13-24 ラドン吸入試験設備

 

図13-25 ラドン吸入によるアルコール性肝障害((c)矢印:脂肪肝)の抑制

図13-25 ラドン吸入によるアルコール性肝障害((c)矢印:脂肪肝)の抑制

 

図13-26 ラドン吸入によるSTZ剤誘導I型糖尿病((f)矢印:膵島萎縮)の抑制

図13-26 ラドン吸入によるSTZ剤誘導I型糖尿病((f)矢印:膵島萎縮)の抑制


三朝温泉 (鳥取県) は1164年に発見されたのが始まりとされ、また一説に、この地のお湯に浸かり、三つ目の朝を迎える頃には病が消えることから「三朝」の地名になったと言われています。世界有数のラドン濃度を有する放射能泉として知られ、気管支喘息などの呼吸器疾患、関節リウマチ,変形性関節症などの疼痛性疾患、慢性膵炎,消化性潰瘍,胃腸炎などの消化器疾患、高血圧,動脈硬化,糖尿病などの生活習慣病が適応症とされています。活性酸素関連の疾患が多いことが特徴で、放射性の希ガスであるラドンが何らかの役割を担っている可能性があります。

このようなことから、岡山大学と原子力機構人形峠環境技術センター (原子力機構) は、低線量放射線域でのラドン吸入に起因する影響と効果について、共同で研究しています。

国立大学では唯一の温泉医療機関である岡山大学病院三朝医療センターは臨床的な知見に基づく研究課題設定を、豊富な動物実験実績がある岡山大学大学院保健学研究科は研究管理及び生体応答評価を、ラドンの測定,制御,挙動評価技術のある原子力機構は吸入試験設備の開発,ラドンの測定,ラドンの体内挙動,線量評価をそれぞれ分担しています。

この研究では、活性酸素関連の疾患をもつモデルマウスなどで、ラドン吸入による生体応答を確認し、ラドン温泉効果の機構解明を進めています。さらに、リスクと比較して定量的に考察するため、吸入ラドンの体内動態について把握し、各臓器,組織の吸収線量と関連付けて評価する方法についても検討しています。これまでに、以下のような成果がありました。

●大規模な小動物のラドン吸入試験を目的とした国内初の本格的な試験設備を開発しました (図13-24)。
●諸臓器中の抗酸化機能の変化について、吸入ラドン濃度と吸入時間との関係を網羅的に検討しました。
●抗酸化機能の亢進により症状緩和が期待できる酸化障害への効果について、アルコール性肝障害やI型糖尿病などに対する抑制効果を確認しました(図13-25,図13-26)。
●生体応答を定量的に考察するため、吸入ラドンの体内動態を把握し、諸臓器,組織の吸収線量の評価方法について検討しました。

今後、線量反応の観点から解析評価を行い、低線量域での作用機序について検討を進め、リスクとの比較を含めた定量的な議論を行っていきたいと考えています。