図2-13 MOX燃料の酸素ポテンシャルとO/M比の関係
図2-14 30%Pu含有MOXペレットの焼結中のO/M変化
高速炉燃料として用いられるウラン・プルトニウム混合酸化物 (MOX) は、酸素と金属の元素数比 (O/M比)が2で定比組成となる蛍石型構造を有しています。この物質の特徴のひとつとして、結晶内の酸素量が変化しても安定であることです。すなわち、O/M比が、定比組成の2からずれても、蛍石型構造は、広範囲で安定に存在することができるのです。UO2は常温では、余剰酸素により2より高いO/M比をとりますが、Puを含有させると、酸素欠陥が形成し、O/M比が2より小さい値もとることができるようになります。O/M比の変化は、燃料特性に影響する熱伝導率などの物性値を大きく変化させるため、O/M比を制御することが重要となります。
O/M比は、温度 (T) と酸素分圧 (PO2 ) で決まるため、それらの関係を知る必要があります。本研究では、熱天秤によるガス平衡法を用いてMOX燃料の酸素ポテンシャル(ΔGO2 )測定を実施してきました。酸素ポテンシャルは、MOX中の酸素の化学的安定性を示す熱力学的な量で、(1)式で表すことができます。
ΔGO2 = RT lnPO2 ・・・ (1)
ここで、Rはガス定数です。雰囲気制御には水素−水分系のガスを用いました。この系ではH2O⇔H2+1/2O2の化学反応によって酸素分圧(PO2 )が決まるため、水素/水分比(PH2/PH2O)を調節することによって、酸素分圧の制御が可能です。これまでに1000点以上のデータを取得・評価し、酸素ポテンシャルをO/M比,温度,Pu含有率を関数として表現する式を導出しました。この式を用いて、雰囲気中の水素/水分比の調整により、O/M比を精度良く制御する技術を開発しました。
図2-13には、1600 ℃におけるMOX燃料の酸素ポテンシャルとO/M比の関係を示します。図を見ると、Pu含有率が高くなるほど、酸素ポテンシャルが高くなることが分かります。酸素ポテンシャルの評価技術を燃料製造や照射挙動評価などの燃料技術に適用することによって、様々な現象を理解し、コントロールすることができるようになります。図2-14に、水素/水分比をパラメータとして焼結を行った場合の30%Pu含有MOXペレットのO/M変化を示します。水素/水分比によってO/M比が変化することが分かります。また、照射挙動評価では、燃料ペレット内の核分裂生成物の化学的安定性評価などに適用できます。