3-3 地下坑道周辺岩盤の損傷の長期的な変化を探る

−弾性波トモグラフィ調査による掘削影響領域の長期的な測定−

図3-10 弾性波トモグラフィ調査レイアウト

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図3-10 弾性波トモグラフィ調査レイアウト

幌延深地層研究センターの深度250 mの西側調査坑道の平面図を示しています。

 

図3-11 弾性波トモグラフィ調査結果

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図3-11 弾性波トモグラフィ調査結果

各段階の調査領域内部の弾性波速度をコンター図に示したものです。

地下に坑道を掘削すると、坑道周辺の岩盤が緩む、すなわち、亀裂が発生して岩盤の強度が低くなり、透水性が増大するといった現象が生じる領域が発生します。この領域を掘削影響領域(Excavation Damaged Zone:EDZ)と呼びます。地層処分では、廃棄体埋設後にEDZが核種移行経路になる可能性があります。そのため、EDZの領域や損傷の程度を長期的かつ定量的に評価するための手法の開発が、地層処分技術に関する研究開発において重要となります。

坑道周辺岩盤のEDZを評価するための有効な手段として、弾性波トモグラフィがあります。これは、調査領域内部の岩盤に打撃を与えたときに発生した波をとらえ、調査領域内部の波の速度分布を調べる手法です。一般に、掘削により発生した割れ目が発達した岩盤では、波の速度が低下することが知られています。本調査では、波の速度が低下した領域や速度低下の割合から、坑道周辺岩盤の損傷範囲やその程度を推定しています。

幌延深地層研究センターの地下施設の深度250 m調査坑道で実施している弾性波トモグラフィ調査のレイアウトを図3-10に示します。調査は、掘削中の掘削断面(切羽)が調査領域に到達する前の6段階と到達した後の6段階の計12段階、掘削後は約2年間にわたって定期的に実施しています。弾性波トモグラフィ調査結果を図3-11に示します。図中(a)及び(b)より、掘削段階では、切羽が調査領域を通過する段階の掘削6までは調査領域内部の顕著な速度の低下は見られませんが、 (c)に示す掘削12では、暖色系で示す速度低下の大きい領域が壁面から1 m程度の範囲で発生しています。このことから、切羽が調査領域を通過したときに坑道周辺岩盤の損傷が壁面から約1 mの範囲まで進行することが推定されます。その後、掘削終了後の(d)〜(f)の長期的な測定の結果、暖色系で示す速度低下の大きい領域は、掘削後350日後までは徐々に領域が狭くなっていますが、550日後にかけては再び領域が広がっています。このように、速度低下領域が長期的に変動する様子が見られました。

今後も調査を継続し、速度低下領域の長期的な変動について考察を進めていきます。さらに、調査領域近傍で透水試験や飽和度の測定を行い、EDZ内部の透水性の増加,飽和度の減少といった観点からEDZ内部の岩盤物性を詳細に調査し、弾性波トモグラフィ調査によるEDZの長期的かつ定量的な評価手法の提案を目指します。