3-8 地層処分における緩衝材の長期変質挙動を把握する

−幅広い化学的条件へ適用可能なスメクタイトの溶解速度モデルの開発−

図3-24 スメクタイトの溶解速度と液相の飽和度との関係

図3-24 スメクタイトの溶解速度と液相の飽和度との関係

pH12 (70 ℃) で測定された溶解速度が、飽和度 (x軸のΔGrは飽和度の関数で、0に近づくと飽和度が高くなることを意味します) が高くなると低下する(溶解が遅くなる)ことを示しています。pH9(80 ℃)での溶解速度(文献値)も同様の傾向が見られます。

 

図3-25 種々の化学的条件におけるスメクタイトの溶解速度(測定値と計算値との比較)

図3-25 種々の化学的条件におけるスメクタイトの溶解速度(測定値と計算値との比較)

pH7〜13,25〜80 ℃の範囲において様々な飽和度条件で測定された溶解速度を、新たに提案した溶解速度式を用いた計算によって再現できることを示しています。

超ウラン元素を含む低レベル放射性廃棄物の地層処分施設では、緩衝材とセメント系材料とが隣接して設置されます。緩衝材が有する低透水性や自己シール性という特性は、緩衝材に用いられるスメクタイトという膨潤性粘土鉱物の寄与によるもので、処分の安全性を確保する上で重要な役割を担います。一方、廃棄体マトリクス等として用いられるセメント系材料には水質を高アルカリ性(pH≧12.5)に変える性質があります。高アルカリ性条件では、長期的にはスメクタイトの溶解を始めとする緩衝材の化学的変質が生じ、低透水性等の特性に影響する可能性があります。このため、スメクタイトの溶解挙動を理解し、その理解に基づき緩衝材の長期挙動を評価する必要があります。

そこで、高アルカリ性条件におけるスメクタイトの溶解挙動を実験的に調べ、緩衝材の長期挙動評価に用いる溶解速度式を提案しました。実験では、原子間力顕微鏡を用いて溶解前後の粒子のサイズ変化を測定し、測定データを統計的処理することで平均的な溶解速度を求めるという金沢大学と北海道大学で提案された手法を取り入れました。図3-24は、スメクタイトの溶解速度測定値と液相の飽和度との関係を示します。これまでにpH9の条件では飽和度が高くなると溶解速度が低下することが実験的に知られていましたが、本実験条件としたpH12という高アルカリ性条件でも同様の傾向を示すことが分かりました。また、スメクタイトの溶解速度に及ぼすpHと温度の影響を調べた国内外の既往の実験結果と、上で述べた実験結果を用いて、種々の条件におけるスメクタイトの溶解速度に与えるpH,温度及び飽和度の影響を分析し、新たな溶解速度式として定式化しました。図3-25は、本溶解速度式がpH7〜13,25〜80 ℃の範囲において様々な飽和度条件で取得されたスメクタイトの溶解速度測定値を再現できることを示しています。

緩衝材の中では、極めて低い固液比条件であるため飽和度が上昇しやすく、セメント系材料からの距離や時間によってpHも異なるため、時間的空間的に幅広い化学的条件にあると考えられます。今回提案したスメクタイトの溶解速度式は、こうした幅広い化学的条件へ適用可能であるといえ、長期挙動評価に用いることで評価の信頼性向上に寄与するものと考えます。

本研究は、北海道大学への委託研究「スメクタイトのアルカリ変質挙動の速度論的研究」の成果の一部です。