図4-26
図4-27
ITERは、国際協力により核融合エネルギーの実現性を研究するための核融合実験装置です。ITERでは、1億度近い重水素と三重水素のプラズマを閉じ込め、これらの核融合反応を起こすことによりエネルギーを発生させます。このとき、中性子やヘリウムイオンが生成されます。ヘリウムイオンは水素イオンと比べて100倍以上の運動エネルギーを有する高速イオンであり、水素イオンとの衝突によりプラズマ加熱に寄与します。
しかしながら、高速ヘリウムイオンの運動のリズムはアルフベン波と呼ばれる磁気流体波の運動のリズムと似ており、これらは一緒に舞を舞い、その結果、水素プラズマが閉じ込められている領域の外側に放出されてしまうため、その輸送の評価が重要な課題となっています。
私たちは、大学共同利用機関法人自然科学研究機構核融合科学研究所と協力し、国際核融合エネルギー研究センターが運用しているスーパーコンピュータ・ヘリオスを用いて、高速イオンの輸送に関する理論シミュレーション研究を行っています。シミュレーションモデルの妥当性確認のため、那珂核融合研究所が運用している核融合実験装置JT-60Uでの実験結果との比較を進めています。実験では、重水素中性粒子ビームの外部入射により、水素プラズマを強く駆動することで現象を模擬しており、周期的なアルフベン波のバーストが観測されています。バースト現象は位相空間の高速イオン分布関数に強く依存していると考えられるため、軌道追跡モンテカルロシミュレーションの結果を基に初期平衡分布関数を精度良く表現する新しい手法を提案し、高速イオン駆動MHD解析コードへ実装しました 。
シミュレーションの結果、バーストに伴う分布緩和を引き起こしている不安定性の周波数や支配的なモード数が実験結果と整合していることを確認しました(図4-26)。また、高速イオンベータ値をパラメータとして、変化させたシミュレーションを実行することにより、高速イオン放出とその結果生じる中性子放出分布が実験結果と整合する高速イオンベータ値を見いだしました(図4-27)。従来の高速イオン分布関数の評価法は、不安定性を考慮していないため、バーストが存在する場合の全中性子放出率を過大評価する傾向にありました。提案手法によりバーストが存在する場合の高速イオンベータ値を精度良く見積もることが初めて可能となりました。
本研究は、独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金(No.22860081, No.23360416, No.25820443)の成果の一部です。