図4-25 軽・重水素プラズマで熱拡散係数と温度勾配の急峻さを表す指標を比較
核融合発電の実現のため、プラズマの熱や粒子が外部へ流出する過程を解明する研究開発が世界各国で精力的に実施されています。特に、国際熱核融合実験炉(ITER)をはじめとする次世代核融合炉では、三重水素を燃料に用いた燃焼プラズマ実験を計画しています。しかし、現在の核融合研究では一般的に軽水素または重水素が用いられています。そのため、プラズマの熱が外部へ流出する過程に対して、これらの水素同位体による効果を明らかにすることは極めて重要な課題となっています。
JT-60装置では2種の核融合燃料核種(軽水素と重水素)での放電実験を実施し、熱の流出する過程に対する水素同位体の違いによる効果を比較しました。その結果、図4-25(a)に示すように、軽水素と重水素プラズマで中心部から境界までにわたって全く同一の温度分布が得られることが分かりました。しかし、軽水素プラズマでこの温度分布を維持するには、重水素プラズマよりも約2倍程度大きな加熱パワーを必要としました。つまり、図4-25(b)に示すように、軽水素の方が重水素よりもプラズマのほぼ全域にわたって約2倍程度熱を流出しやすい性質を持つことが分かりました。
従来、核融合プラズマを加熱していくとプラズマの温度勾配は次第に急峻になり、あるレベルに到達すると熱の流出が大きくなる不安定性が駆動され、急激に熱の流出(熱拡散係数)が大きくなり、温度分布の勾配の変化が小さくなる性質が知られていました。しかし、この性質が水素同位体にどのように依存するかは分かっていませんでした。本実験によって、図4-25(c)に示すように、プラズマ温度勾配の急峻さを表す指標は、重い水素同位体ほど大きくなり、一方でプラズマ温度分布が同じならば、熱拡散係数は重い水素同位体ほど小さくなる性質があることを世界で初めて解明しました。これは温度勾配による不安定性の強さが水素同位体によって異なる可能性を示しています。
本研究成果は、プラズマから熱が流出する性質が水素同位体によって異なることを示し、熱拡散特性の理解を急速に進展させることとなりました。今回得られた成果は、重水素よりも更に重い水素同位体である三重水素を用いるITERでの核融合炉出力の予測精度の向上につながるだけでなく、将来の核融合原型炉の設計指針を与えるものです。