研究用原子炉,加速器,高出力レーザー装置等の施設・設備を用いて得られる、高強度で高品位な中性子ビーム,イオンビーム,電子線,レーザー,放射光等を総称して 「量子ビーム」 と呼び、これらを発生・制御する技術とこれらを用いて高精度な加工や観察等を行う利用技術からなる 「量子ビームテクノロジー」 が近年大きく進展しています。
量子ビームは、物質を構成する原子や分子と様々な相互作用をしますので、物質状態を原子や分子のレベルで観察する手段として有効です (「観る」 機能)。また、原子や分子の配列や組成,結合状態や電子状態を変化させることから、原子・分子レベルの加工も得意としています (「創る」機能)。更に、狙った部位に照射することにより、細胞レベルでがん等を治療することにも用いられています(「治す」 機能)(図5-1)。
原子力機構では、東海地区の研究用原子炉JRR-3,大強度陽子加速器J-PARC、高崎地区のイオン照射研究施設TIARA,電子線照射施設,コバルト60γ線照射施設、木津地区の高強度レーザーJ-KAREN,X線レーザー、播磨地区のSPring-8放射光ビームラインなどの様々な量子ビーム施設群 (量子ビームプラットフォーム) を保有しています。これらを利用して、各種量子ビームの発生・制御・利用技術を高度化する先進ビーム技術開発を進めるとともに、量子ビームの持つ優れた機能を総合的に活用し、物質・材料,環境・エネルギー,医療・バイオ分野で、基礎研究から産業応用にわたって、多種多様な成果を創出しています(図5-2)。
本章では、先進ビーム技術,物質・材料,環境・エネルギー,医療・バイオの各分野から量子ビームを用いた最近の代表的成果をご紹介します。トピックス5-1,5-10は物質・材料、 トピックス5-2,5-3は医療・バイオ、トピックス5-4,5-8,5-9は環境・エネルギー、トピックス5-5,5-6,5-7は先進的なレーザー技術に関する研究成果です。
また、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の復旧・復興に貢献するために、量子ビームを用いた除染技術の開発等にも精力的に取り組んでいます。こうした福島に関する量子ビームを用いた研究開発の取り組みについては、第1章のトピックス1-9をご参照ください。