図5-9 紫外線を照射したダイヤモンドの写真
図5-10 作製したNV中心のフォトルミネッセンススペクトル
図5-11 一つのイオンを照射した時のCCD画像
たった1個のイオンが半導体に入射することで、一時的な誤動作や定常的な故障が発生することをシングルイベント効果と呼びます。宇宙等の放射線環境で半導体を利用するためには、その発生機構を明らかにする必要があり、そのための模擬実験には1個のイオンが当たった場所をリアルタイムで検出する技術が求められます。現状では半導体の上に蛍光体を設置し、イオンが蛍光体を通過する時に発光する微弱光の発光位置を検出する手法が利用されています。したがって、たった1個のイオンを検出可能なほど強い発光強度を持つ蛍光体が模索されています。そこで私たちは、ダイヤモンド中に含まれる窒素−空孔欠陥 (NV中心) が、紫外線を高い効率で吸収して高強度の蛍光を発する特徴に着目しました。
はじめに、多量のNV中心を含むダイヤモンドの作製に取り組みました。今回、高温高圧法により作製された不純物として窒素を多く含む合成ダイヤモンドを準備しました。試料に2 MeVの電子線を照射することによって、はじき出し損傷を引き起こし、ダイヤモンド中に多量の欠陥を導入しました。電子線を照射した後に、800 ℃で5時間の熱処理を施すことで、不純物の窒素と欠陥とを結合させ、多量のNV中心を含むダイヤモンドを作製することに成功しました (図5-9)。作製した試料のフォトルミネッセンススペクトル分析を行ったところ、電気的に中性なNV0中心と、負に帯電したNV−中心が形成されていることが分かりました(図5-10)。同図から、NV中心以外の余分な欠陥が形成されていないことも分かりました。次に、様々なエネルギーを持つ異なる種類のイオンを1個だけ照射する実験を行いました。超高感度CCDカメラと映像増倍管を組み合わせた測定装置を開発し、イオン入射に伴い発生する微弱光をリアルタイムで検出することに成功しました(図5-11)。これはNV中心を含むダイヤモンドからのみ検出され、電子線未照射のダイヤモンドからは検出されませんでした。この成果は、半導体の信頼性を損なうシングルイベント効果の発生機構を解明するための基盤技術として位置づけられるものです。
本研究は、独立行政法人科学技術振興機構戦略的国際科学技術協力事業日本−ドイツ共同研究(研究領域)「ナノエレクトロニクス」により実施された成果の一部であり、筑波大学及び独立行政法人物質・材料研究機構と共同して進めたものです。