5-5 高強度γ線ビーム非破壊核種分析へ向けて

−高輝度直流電子源から500 keV大電流電子ビームを生成−

図5-12 500 keV大電流電子ビーム生成試験

図5-12 500 keV大電流電子ビーム生成試験

高輝度直流電子源では、レーザーの照射により生成した電子を、高電圧により高エネルギー加速し、電子ビームとして取り出します。電子ビームエネルギーは加速電圧と素電荷の積であるkeV単位で表されます。線で示す加速電圧を一定値に保ち、レーザーを照射して線で示すビーム電流を取り出します。最大2 mAまでの電子ビームを500 keVのエネルギーで取り出すことに成功しました。

 

図5-13 エネルギー回収リニアックγ線発生装置

図5-13 エネルギー回収リニアックγ線発生装置

KEKで開発中のエネルギー回収リニアックです。本研究で開発した高輝度直流電子源を移設し2013年4月からビーム運転試験を開始しました。電子源からのビームを超伝導加速器で更に加速し、レーザーコンプトン散乱装置に導きます。生成する高強度のX線やγ線を用いて非破壊核種分析の実験を行う予定です。

核不拡散に必要な核物質の計量管理 (保障措置) のため、使用済核燃料中のPuやマイナーアクチノイド量を同位体ごとに非破壊分析する技術に近年注目が集まっています。私たちは、原子核の共鳴散乱を用いた非破壊核種分析装置を提案して開発を進めています。目的核種の励起準位と同じエネルギーを持つ単色γ線ビームを使用済核燃料に照射し、共鳴散乱で発生したγ線を検出・定量して核種の精密な計量を行います。

装置の鍵となる高強度単色γ線ビームの発生には、レーザーと電子ビームの衝突によるレーザーコンプトン散乱を用います。面密度の高い高輝度電子ビームをレーザーと衝突させることができれば、高強度のγ線発生が可能となります。この高輝度電子ビームを大電流で発生させることのできるのがエネルギー回収リニアックであり、その技術的課題のひとつである高輝度大電流電子源の開発に私たちは取り組んできました。

電子源から高輝度電子ビームを発生するにはビーム中の電子同士の反発を抑制して、電子ビームが膨れることを防ぐ必要があります。そのためには、高エネルギービームにして電子源から出射することが必要で、詳しい計算によると、500 keV以上のエネルギーが求められています。ところが、従来の高輝度電子源では、印加電圧を高くする際の放電が原因で350 keVより高エネルギーのビームを発生させることはできませんでした。私たちは、分割型セラミック管等の独自技術を用いて、この放電問題に取り組み、解決することに成功しました。

電子ビーム生成試験の結果を図5-12に示します。線が電子源加速電圧, 線がビーム電流を表します。500 keV電子ビームが生成された時間をで示します。図に示すようにエネルギー500 keVの電子ビームを最大2 mAまで生成することに成功しました。

私たちは、本電子源を大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)で開発中のエネルギー回収リニアックに組み込み、超伝導加速器に接続し(図5-13)、2013年4月から加速試験を開始しました。今後は非破壊核種分析の実用化に向けた実証試験として、レーザーコンプトン散乱による高強度単色γ線発生試験に取り組む予定です。

本研究は、平成24年度独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金 (No.23540353)「サブピコバンチ計測を用いたマイクロバンチ不安定性の研究」及び文部科学省科学技術試験研究委託事業「超伝導加速による次世代小型高輝度光子ビーム源の開発」の成果の一部です。