図5-14 相対論強度でガスジェットターゲットを照射して発生する新しい高次高調波発生
ライフサイエンスや物質科学,ナノ技術等における基礎研究や応用研究においては、明るいX線源が必要とされています。そのようなX線源には二つのタイプが存在します。一つは大型の加速器技術に基づくものであり、他方はコンパクトなレーザーベースのもの (レーザープラズマX線源, 原子による高次高調波など)です。 レーザーベースのX線源の魅力は大学規模の実験室サイズに収まることと、パルス幅が10-16 sより短くできる点にあります。一方で、克服すべき点として、keVあるいはそれ以上のエネルギー領域の高輝度コヒーレントX線源の発生が困難な点が挙げられます。この問題に取り組むことで、keV領域に至る新しいタイプの短波長コヒーレントX線源開発を目指しています。
今回、図5-14(a)に示すように、パルス幅30〜50フェムト秒の高出力レーザーを相対論強度(>1018 W/cm2) でガスジェットターゲットに集光照射して、新しいタイプの高次高調波が発生することを発見しました。通常、奇数次のみが発生する原子による高次高調波とは異なり、奇数次だけではなく偶数次も含む櫛の目状 (コム状) の高次高調波が発生し(図5-14 (b))、そのエネルギーは「水の窓」を含む360 eVまで達しています。また、励起レーザーの偏光状態が直線偏光,円偏光にかかわらず発生し、120 eVの高調波の光子数は、他の方法では困難な4×109個 (90 nJ) に及ぶと評価されました。また、大型のX線自由電子レーザー以外には、このような円偏光コヒーレントX線発生は困難であり、光源として非常に興味深い性質を示しています。私たちは、この高次高調波の発生機構を解明するためにParticle-In-Cell (PIC) シミュレーションと数学的カタストロフ理論を用いた解析を行いました。その結果、レーザーがガスターゲットを通過する際に生じる航跡波と船首波の境界領域に振動する電子密度のスパイクが形成され、その振動が高次高調波を発生することを明らかにしました(図5-14(c))。
今回、私たちが発見した高輝度コヒーレントX線源は、デブリフリーのガスターゲットが利用できるので、繰り返し可能な光源であり、かつ、大学規模の実験室に収まることから、大型装置と相補的な役目を果たすことができると考えられます。
本研究は、平成21年度原子力機構研究開発調整財源萌芽研究及び平成23年度日本学術振興会科学研究費補助金 (No. 23740413) 若手研究 (B) 「New high harmonic generation mechanism」の成果の一部です。