4-5 核融合炉条件を作り出す強力中性子源の建設に向けて

−高速リチウム流れの厚さと安定度を測る−

図4-10 EVEDA リチウム試験ループ(ELTL)の全景

図4-10 EVEDA リチウム試験ループ(ELTL)の全景

全高が20 mに及ぶELTLの最上部の密封容器内で液体Liターゲットを作り出します。

 

図4-11 開発した接触式の液面計

図4-11 開発した接触式の液面計

液面をとらえる検出針はロッドを介して移動テーブルとつながっており、ステッピングモーターにより高精度で駆動します。

 

図4-12 Liターゲットの流れとLi流れの経路断面図(単位:mm)

図4-12 Liターゲットの流れとLi流れの経路断面図(単位:mm)

20 m/sの速さで流れるLiターゲットの様子(観測窓から観察)と、Li流れの経路の断面図です。ノズルから矢印の向きに流れます。赤四角で囲まれた部分がIFMIF実機での重陽子入射領域に相当します。

核融合炉を実用化するためにはその中で使用可能な材料の開発が必須です。材料開発に不可欠である核融合炉条件を模擬した中性子照射施設「国際核融合材料照射施設」 (IFMIF) の工学実証・工学設計活動 (EVEDA) が、日欧協力のもとBA活動のひとつとして実施されています。IFMIFでは重陽子をリチウム (Li)中に入射することで中性子が発生します。私たちは、原子力機構大洗研究開発センターと連携し、IFMIFのLi施設と同規模である世界最大のEVEDA Li試験ループ (ELTL)(図4-10) にて、IFMIFを建設する際に必要となる実証データを取得する試験を行っています。

実証データの中で最も重要なものは、Liターゲットの安定度です。Liターゲットは、250 ℃の溶融状態で自由表面 (水面のように自由に変形可能な液面) を伴い、流速15 m/sで湾曲面に沿って液膜状 (厚さ25 mm) で流れます。一方、高速流れの自由表面は一般に不安定になり、波立ち等の問題が生じます。したがって、高流速で安定に流す (目標厚さ変動値±1 mm以内) という大変難しい課題を克服する必要があります。湾曲流れに作用する遠心力が波立ちを抑制すると予測していますが、実測により確かめる必要があり、精度の良い計測器の開発が必須です。

これまで私たちはELTLより小規模の液体Li装置を用いて接触式の液面計を開発してきました。これは先端に鋭利な検出針を有し、液面と針の接触を電気信号として取り出す装置です。接触信号を解析することで波の特性を取得します。本装置をELTLに適用するためにはいくつかの克服すべき課題がありました。例えば小規模装置の内圧は大気圧と同程度でしたが、ELTLでは真空であり、外圧との1気圧の差圧に抗することが要求されるため、頑丈な構造を適用するとともに強力なモーターを採用しました。上記のような設計に基づきELTL用の液面計を製作しました(図4-11)。性能試験の結果、要求どおり高精度(分解能0.1 mm, 位置決め精度0.01 mm)で検出針を駆動可能であることが分かりました。

現在、本装置及び高速度ビデオカメラなどを用いて、Liターゲットの安定度を計測する試験を実施しています。IFMIF条件を超える20 m/sの高速でLiを流すことに成功し(図4-12)、おおむね目標通りの安定度が得られています。