図4-21 JT-60用500 keV負イオン源の外観と加速電極
図4-22 ビーム通過孔数と真空耐電圧の指標の関係
核融合装置では、プラズマ中に電流を駆動するために、数100 keV以上の重水素の中性粒子ビームをプラズマに入射することが必要です。臨界プラズマ試験装置JT-60では、世界に先駆けて超大型の負イオン源(図4-21) を用いた高エネルギー中性粒子ビームを開発し、近年、負イオン源の真空耐電圧により400 keV以下に制限されていたビームエネルギーを500 keVに改善することに成功しました。
JT-60SAやITERに必要な中性粒子ビームのエネルギーは、500 keVあるいは1 MeVとなることから、負イオン源の加速部では、高電圧を長時間安定して保持する性能が求められます。JT-60の負イオン源の加速電極は、図4-21に示すように、直径が1.5 mと非常に大きく、電界の集中するビーム通過孔が1100個あります。加速電極の設計データは、直径0.2 m程度の電界集中のない小型平行電極を用いたものであり、ビーム通過孔部分に局所高電界を持つ大面積電極の真空放電現象は、これまでは研究されていませんでした。
そこで、私たちは、真空中の絶縁破壊位置を特定するために、電極内全体を観測できるカメラシステムを開発しました。その結果、絶縁破壊に伴う発光が、ビーム通過孔周辺に集中するとともに、1100個の孔でランダムに発生することを突き止めました。この結果から、ビーム通過孔の数によって真空耐電圧が制限されていると考え、ビーム通過孔と真空耐電圧の関係を調べました (図4-22)。真空耐電圧は電極間隔の平方根に比例するため、真空耐電圧を電極間隔の平方根で割った値は真空耐電圧の指標になります。今回、真空耐電圧の指標は、電極の面積で決まるだけでなく、電極にビーム通過孔を増やしていくと、ある孔数から減少し始めることが分かりました。これは、電極の面積及びビーム通過孔数が独立に真空耐電圧を制限していることを示しています。更に今回の結果から、JT-60用負イオン源は真空耐電圧が孔数で制限されていることを明らかにしました。
今回の成果のキーポイントは、絶縁破壊を引き起こし、真空耐電圧を支配する要因を発見したことです。この成果により、JT-60SAやITER用の負イオン源の真空耐電圧を予測し、設計の指針を立てられるようになりました。さらに、学術的には局所的に高電界を持つ電極における真空放電現象の理解に新たな知見を与えました。