図6-9 「ふげん」から採取された試験片の採取場所とその特徴
図6-10 「ふげん」から採取されたサンプルの分析評価結果
原子力発電プラントでは、ポンプや弁,管材などにステンレス鋼鋳鋼が使用されています。このステンレス鋼鋳鋼は300 ℃程度の実際の軽水炉の運転温度でも長期間使用することにより脆くなる現象、すなわち熱時効脆化が生じる可能性があることが指摘されています。長期供用中の原子力発電プラントに対して、これらステンレス鋼鋳鋼の健全性を確認し、安全確保を図る必要があることから、脆化の程度を予測するモデルが開発されています。しかしながら、実機プラントにおける熱時効の影響は十年単位で表れる現象のため、この予測モデルは、実際の使用条件よりも高温の熱処理により脆化の進む速さを加速させた試験データを中心に構築されています。そのため、実際に原子力発電プラントで使用された材料を用いて熱時効脆化の程度を調査し、予測モデルの妥当性を確認することが重要となっています。
現在、廃止措置が進められている「ふげん」では、約25年間使用されてきた貴重な構造材料があります。私たちは、これら「ふげん」で使用されたステンレス鋼鋳鋼を利用して、長期間使用された材料の熱時効による脆化の程度を調査しました (図6-9)。三次元アトムプローブ法というナノ(10億分の1)メートルサイズの組織を観察できる手法を用いて、熱時効による微細組織の変化を調べた結果、275 ℃で使用された材料について、使用前は材料内で均一であったCr原子の分布が、熱時効後にはムラが生じており、濃度が高い部位が観察され、スピノーダル分解が進んでいることが確認されました(図6-10(a))。このような微細組織の変化は材料の硬さと関係することが知られており、熱時効脆化の主原因になると考えられています。シャルピー衝撃試験の結果からは、注水弁で健全性に問題のないことが確認される一方で、再循環ポンプで熱時効による脆化の兆候が認められ、微細組織評価の結果と相関があることが示されました(図6-10(b))。今後も、このように「ふげん」から得られた貴重な材料データから、脆化メカニズムの解明や予測モデルの妥当性を確認するとともに、その知見を基にした予測モデルの高精度化について検討を行う予定です。
本研究は、独立行政法人原子力安全基盤機構からの受託研究「福井県における高経年化調査研究」の成果の一部です。