図6-1 安全研究の分野と関連する原子力機構の主な施設
図6-2 安全研究の今後の方向性
安全研究センターでは、原子力施設で深刻な事故が起きる可能性や影響を評価して、軽水炉をはじめとする様々な原子力施設を安全に使うことができるように研究を進めてきました。しかし、東日本大震災による巨大な地震と津波によって、東京電力株式会社福島第一原子力発電所 (1F)で大規模な事故が起きてしまいました。私たちもこれまでの研究成果を活用して、国の緊急時対応等に協力してきましたが、安全研究の専門家集団としてこの事故を防ぐことができなかったことに対し責任を痛感しています。
私たちが利用する技術には常に改善の余地があります。技術をより安全に、かつ効果的に使うためには、常に状態をきちんと理解して対応する能力を高め、必要な道具を磨いていかなければなりません。1F事故の調査を行った国際原子力機関 (IAEA) もこのことを「継続的改善を目指すことが重要」と指摘しています。私たちは、「合理的に達成できる安全の最高水準を目指した継続的改善の追求」に貢献するため、安全研究に取り組んでいます。
私たちは、原子力施設の安全を脅かす可能性のある多様な現象について、図6-1に示す施設を活用して研究を進めています。これらは、原子力特有の現象を研究するため、放射性物質を取り扱い、また厳しい事故条件を模擬できるなどの特殊な能力を有する施設です。
本章では、最近の研究成果から、高燃焼度燃料に蓄積するFPガス量の予測 (トピックス6-1) 及び配管の健全性評価手法 (トピックス6-2)、使用済燃料中の同位体元素の分析法 (トピックス6-3)並びにステンレス鋼鋳鋼の熱時効脆化 (トピックス6-4) に関する成果を紹介します。
私たちは今後、図6-2に示すように、原子力施設等のリスクを低減するため、シビアアクシデント (SA) の防止及び評価に関する研究並びに環境影響評価等の原子力防災に関する研究について、特にSAへの進展を評価する手法の高度化並びにSAを想定した緊急時への準備の充実を図るための研究を重点的に進めていきたいと考えています。
なお、安全研究センターが取り組んできた1F事故対応に関する研究は、福島県内における住民の被ばく線量評価 (トピックス1-10)、汚泥の処理・処分に伴う作業者及び公衆の被ばく線量評価 (トピックス1-11)、福島事故に関する5つの事故調査報告書のレビュー(トピックス1-18) について、第1章で紹介しています。