6-1 燃料に蓄積される核分裂生成ガス量を高精度で評価する

−FPガスバブル成長と蓄積ガス量を予測する速度論モデルの開発−

図6-3 ペレットの中央部と周辺部におけるガスバブルの成長(半径の増加)

図6-3 ペレットの中央部と周辺部におけるガスバブルの成長(半径の増加)

燃料ペレット内のガスバブルの照射に伴う成長を示します。ペレット中心部は周辺部より温度が高く、バブルの成長は速くなります。

 

図6-4 FPガス原子生成量とガス蓄積量のペレット半径方向分布

図6-4 FPガス原子生成量とガス蓄積量のペレット半径方向分布

ペレットの半径方向のFPガスの生成量・蓄積量を示します。線と線が計算値であり、これらに囲まれた部分がガス蓄積量 (一部は放出された) です。ペレット内に保持された (ガスバブル以外の) ガス原子の濃度は、線及び(EPMA実測値 (相対値)) で示されます。

軽水炉の高燃焼度燃料のペレット内には、核分裂によって生成した核分裂生成ガス (FPガス原子) が長期間の照射によって多量に蓄積されています。このガス原子は、ペレット内に気泡 (ガスバブル) として蓄積してペレットの膨張を引き起こしたり、ペレット外への放出によって燃料棒内の圧力を高めて被覆管を押し広げたりする原因となり、燃料の健全性に影響する可能性があります。

したがって、高燃焼度燃料の安全性評価においては、バブルの成長やガス蓄積量を正確に予測評価することが重要です。このためにバブルの成長をより精度良く評価する新モデルを考案し、燃料ふるまい解析コードFEMAXI-7を用いた評価手法を開発しました。ガスバブルは、運転中に生成したFPガス原子の流入によって、ガス圧力が周囲の結晶組織の抵抗を上回ることにより成長し、ガス蓄積量は増加します。しかし従来のモデルでは、バブルの成長はガス圧と抵抗力とが常に平衡すると仮定していたため、バブル成長やガス蓄積量が正確に評価できませんでした。そこで本研究では、バブル内圧が高まり周囲の組織を押し広げていく過程としてバブルの成長をモデル化しました。次に、高燃焼度燃料を対象に実際に計算を行い、バブル成長とガス蓄積量を計算しました。図6-3には燃焼に伴うバブル成長(半径増加)を示します。半径が0.5 μmに達するとガス放出が起き、成長は止まります。また燃料の出力が下がっても成長速度は低下します。

こうした経過を経た燃料の最終的なガス蓄積量について、図6-4に計算値と電子線マイクロアナライザ(EPMA)での実測値との比較を示します。線とはペレットの結晶粒内に保持されたガス原子の量で、線はの分布に近い傾向を示しています。また、線と線の間にある面積がバブルに蓄積されたガス量に相当し、全生成量の約18%と計算されました。

一方、この燃料を用いた原子炉安全性研究炉(NSRR)での反応度事故模擬実験では、ガス放出量が生成量の約22%であり、モデルは満足すべき予測性を示しました。

他の同様の燃料を用いた実験結果は、ガス放出源は粒界に存在するバブルが主であることを示していますが、計算値と実測値が近いことは、この結果を裏付けています。今回開発したモデルにより、燃料の健全性に影響する要因のひとつとしてのFPガスバブルの成長とガス蓄積量のより正確な評価が可能となりました。