図6-5 地震時のき裂先端の変形と応力状態
図6-6 模擬地震動によるき裂進展結果
き裂進展を正確に予測することは、原子力施設の安全性を評価するために重要です。これまで、一定振幅の繰返し荷重に対するき裂進展評価手法は確立されていましたが、基準地震動を超える非常に大きな地震のような大きな振幅かつ不規則な繰返し荷重に対するき裂進展評価手法は確立されていませんでした。ここでは、新たに提案したき裂進展評価手法を用いて、地震時の配管について評価した結果を紹介します。
私たちはこれまでに、大きな振幅の繰返し荷重によるき裂進展は弾塑性破壊力学パラメータであるJ 積分値の範囲(ΔJ )を用いた方法で評価できることを明らかにしました。また、繰返し荷重の途中で過大な引張・圧縮荷重を与えた場合、過大荷重後のき裂進展が遅延あるいは加速することを実験で明らかにしました。この結果から、地震時のき裂進展を正確に評価するためには、過大荷重によるき裂先端の変形とき裂前縁の応力の変化を考慮する必要があることを明らかにしました。
図6-5に示すように、過大な引張荷重によりき裂が鈍化し、過大な圧縮荷重によりき裂前縁の応力が上昇することが実験と有限要素法解析により分かりました。き裂の鈍化はき裂を進展しにくくさせ、き裂前縁の応力の上昇はき裂を進展させます。そこで、過大荷重によるき裂鈍化及びき裂前縁の応力の変化をモデル化し、ΔJ を用いたき裂進展評価手法を提案しました。不規則な繰返し荷重から1波ごとの最大と最小荷重の組合せにおけるΔJ を算出し、それを提案したき裂進展評価手法に代入することでき裂進展量を評価します。
地震を模擬した繰返し荷重下で配管のき裂進展試験を行い、提案したき裂進展評価手法により正確にき裂進展量を評価できるかの確認を行いました。図6-6は、試験後に測定したき裂進展量 () と従来手法及び提案した手法による評価結果を比較したものです。き裂先端の変形や過大荷重の影響を考慮していない従来手法と比較して、提案した手法では、上述のようにき裂先端の大きな変形を伴う不規則な繰返し荷重を考慮して1波ずつ忠実にき裂進展量を評価しており、試験結果をより正確に評価できることを確認しました。また、異なる大きさの繰返し荷重や材料でも本提案手法を用いて評価できることを確認しています。
本研究は、独立行政法人原子力安全基盤機構からの受託研究「高経年化を考慮した機器・構造物の耐震安全評価手法の高度化」の成果の一部です。