図3-6 X軸とY軸を独立に2軸回転できる試料ステージ
図3-7 NMRスペクトル幅の磁場方向依存
超伝導状態では二つの電子が対となって超伝導電子ペアを組みます。このペアを形成するには電子がお互いに引き合う、引力が必要です。従来の超伝導体では、この引力の起源は結晶格子の振動を介して電子同士が引き合うことでした。しかし、ウランやネプツニウムなどを含む超伝導体では、磁気揺らぎがその起源となっていると考えられています。揺らぎは、ある量が変動する現象です。磁気揺らぎから誘起される特異な超伝導では、従来の超伝導に比べて高い超伝導転移温度が期待できるので、その起源の解明は重要な課題です。
超伝導体URu2Si2は、約2 K(−271 ℃)で超伝導になりますが、それより高温(2 K から17.5 K(−256 ℃))で“隠れた秩序”と呼ばれる状態があります。超伝導はこの秩序状態下で起きるので、この状態の磁気揺らぎが超伝導を引き起こしていると考えられますが、長年隠れた秩序は未解明であり、固体物理の難問のひとつになっています。この超伝導体の通常状態(17.5 K以上)では、電子系と結晶格子は4回対称になっています。最近、隠れた秩序状態では、電子系が2回対称にゆがんでいることが分かってきました。しかし、そのゆがみの大きさは正確には分かっていませんでした。本研究では、核磁気共鳴(NMR)法を用いてその電子系の2回対称のゆがみを正確に見積もることを目指しました。この目的のために磁場下で試料を正確に回転させるためのステージを開発しました(図3-6)。このステージを用いて物質内の磁場分布に比例するNMRスペクトル幅を測定した結果、磁場方向によってスペクトル線幅が、低温の隠れた秩序状態で大きく変化することを発見し、この変化の値から電子系の2回対称のゆがみが従来考えられていた値よりは小さいことを発見しました(図3-7)。
URu2Si2の新奇超伝導は、隠れた秩序状態での2回対称のゆがみの揺らぎによって引き起こされていると推測されており、本研究によってその機構解明が大きく前進すると考えられます。室温で超伝導になる高温超伝導物質が見つかれば、リニアモータへの応用など大きな社会的インパクトがあるため、その開発努力が続けられています。今後は、様々なアクチノイド化合物について、超伝導が磁気揺らぎから誘起される発現機構を明らかにしていきたいと考えています。