3-6 シリカコロイドに吸着して地下水中を移動するウランを発見

−環境水中の極微量アクチノイドの形態を解明する効果的な方法を考案−

図3-12 SEC-UV-Vis-ICP-MS法

図3-12 SEC-UV-Vis-ICP-MS法

試料溶液を溶離液とともに分離筒に流すと、試料液中の成分は大きさの違いで分離されます。分離筒から出た液をそのままUV-VisとICP-MSに導入して成分の特性を分析します。従来法では、1本の分離筒を用いて、コロイドのみを分析します。本研究では、環境水を直接分離筒に流し、全成分を測定します。正負反対の電荷を持つ2本の分離筒で得られる結果を比較します。

 

図3-13 幌延地下水の分析結果

図3-13 幌延地下水の分析結果

(b)(d)はUV-Visで測定した試料の紫外線吸収、(a)(c)はICP-MSで測定した238Uです。大きさが分かっているコロイドが検出される時間(溶出時間)から、試料成分の大きさが計算できます。大きいコロイドほど早い時間に溶出します。分離筒の電荷が正負どちらでも、計算される大きさはほぼ同じになります。イオンの場合、分離筒の電荷により溶出する時間が大きく異なるので(b, d)、計算される大きさが大きく異なります。これにより、イオンであることが分かります。

ウラン(U)などのアクチノイドは、イオンとしてではなく有機物などの微粒子(コロイド)に吸着した形態(擬似コロイド)で環境水中を移動すると、理論的には考えられています。しかし、環境水中のアクチノイドがどのようなコロイドに吸着しているのか、イオンとしては存在しないのかを確認できる有効な分析方法がなかったため、実験的には確認されていませんでした。

環境水中の擬似コロイドの分析に、コロイドを大きさで分離しながら、コロイドに含まれる微量元素を測定する方法(SEC-UV-Vis-ICP-MS法)があります(図3-12)。従来は、フィルターなどで比較的大きなコロイドのみをあらかじめ回収したのち、分離筒にコロイドのみを流して分析します。この方法には、イオン及び小さなコロイドが測定できない欠点があります。私たちは、この問題を解決するために、分離筒の電荷に着目しました。環境水を直接分離筒に流すと、すべての状態のアクチノイドが検出されます。コロイドは、大きさで分離されますが、その溶出時間は分離筒の電荷に影響されません。一方、イオンは分離筒の電荷により分離筒に吸着あるいは反発します。その結果、分離筒の電荷が異なると、イオンの溶出時間が異なります。正負反対の電荷を持つ2本の分離筒で分析した結果を比較することにより、コロイドとイオンを区別できると考えました。

北海道幌延町で採取した地下水に含まれる極めて微量(数10 ppt)のUをこの方法で分析しました(図3-13)。それぞれの分離筒で、Uはひとつのピークとして検出されました。ピークが検出された時間から求められるUの大きさは、両方の分離筒で同じ値となり、Uがコロイドの状態であることが分かりました。Uは極めて微量のとき、それ自身ではコロイドを作りません。Uと同じ溶出時間に、幌延地下水に多く含まれるケイ素(Si)のすべてが溶出しました。このことから、Uは、Siが作るシリカコロイドに吸着した擬似コロイドであることが分かりました。Uのこのような擬似コロイドは、私たちが世界で初めて発見しました。このほかにはUが検出されなかったので、幌延地下水にはUのイオンが存在しないことも分かりました。

本研究で考案した分析方法により、環境水中のアクチノイドの形態を解明できます。本分析方法は、実験試料を含む多様な水試料にも適用できますので様々な分野への応用が期待できます。