4-5 分離変換技術開発に向けた基礎データの拡充

−電気化学的な手法を用いた金属間化合物の物性測定−

図4-11 本研究で考案した電気化学的な手法(原理図)

図4-11 本研究で考案した電気化学的な手法(原理図)

本手法では、塩化セリウムと塩化カドミウムが溶解した溶融塩中で定電位電解することで、CeとCdを作用電極上に同時に析出させ、金属間化合物を形成させその際に観測されるプラトー電位(図4-12)を用いて生成自由エネルギーを評価します。

 

図4-12 参照電極に対するCeとCdの金属間化合物間の平衡反応電位の経時変化(673 K)

図4-12 参照電極に対するCeとCdの金属間化合物間の平衡反応電位の経時変化(673 K)

線が本手法による参照電極に対する測定電位、線がCeの平衡電位(基準電位)を表しています。本手法により、CeとCdの金属間化合物の酸化還元反応に起因する六つのプラトー電位(E1E6)を測定することに成功しました。

将来の核燃料サイクルにおいては、廃棄物処分の負担軽減のために、長寿命放射性核種のマイナーアクチノイド(MA)を使用済燃料から回収し燃焼する分離変換技術が有力なオプションとされています。MAは、高い放射性と発熱性を有することから、私たちはその再処理法として、非鉄精錬等に用いられる手法を応用した乾式再処理法の研究開発を進めています。乾式再処理法では、MAを核分裂生成物と分離しながら液体カドミウム(Cd)中に回収し、その後でCdを蒸留分離するプロセスにより、MAを合金形態にして回収します。乾式再処理の技術開発においては、これらの挙動を理解するための基礎データを取得する必要があります。Cdを蒸留分離するプロセスでは、Cd蒸留中に形成されると予想される様々な金属間化合物の安定性(ギブスの生成自由エネルギー)を評価する必要があります。金属間化合物は蒸留を阻害する可能性があるためです。

私たちは様々な金属間化合物のギブスの生成自由エネルギーを系統的に測定・評価する手法として、図4-11に示す溶融塩中での電気化学的な手法を考案しました。本手法では、作用電極と補助電極,参照電極からなる三電極法を採用し、塩化セリウム(CeCl3)と塩化カドミウム(CdCl2)が溶解している溶融塩中で定電位電解法によりCeとCdを作用電極上に同時析出させ、金属間化合物を形成させます。そして、基準となる溶融塩中でのCeの酸化還元反応に起因する電位(平衡電位)Eeqと、CeとCdの金属間化合物間の酸化還元反応に起因する電位(E1E6)との電位差 から、ギブスの生成自由エネルギーを算出します(図4-12)。

今回、MAと類似した化学的性質を有するCeを用いて生成自由エネルギーを系統的に測定・評価することに成功し、6個の金属間化合物の生成自由エネルギーを新たに評価することができました。

このような手法を確立することで、今後アクチノイドとCdとの金属間化合物の生成自由エネルギーを評価する道筋をつなぐことができました。